平和がもたらす健康
世界38カ国の医師、医療関係者、医学生は、パリで開催された第14回核戦争防止医師の会(IPPNW)世界大会に集い、世界が今後も存続し、そこに住む人々が健康な生活を享受するためには、一国の国内で、そして国家間で平和と法による統治が必要であることを確認した。
今年はIPPNWが設立されてから20年、そしてIPPNWのノ−ベル平和賞受賞から15年の年にあたる。冷戦のさ中にあった設立当初、IPPNWが最も強く訴えたのは、核によるホロコ−ストのもたらす脅威と核軍縮の必要性であった。核兵器の廃絶は今後もIPPNWの最も重要な主張であり続けるが、同時に、我々は、核による抑止論のような時代遅れの理論が未だ核保有国の間でもてはやされている今日、一方で新たな思考、新たな戦略、新たな技術が核兵器の脅威をより複雑なものにしていることも認識している。IPPNWの多面的な活動の一環として、核兵器のない世界を実現するための包括的で説得力のあるヴィジョンを我々は模索する。
一方で、世界中で絶えることなく続く戦争において、人々を傷つけその生命を奪う主要な手段として使われているのは通常兵器、特に小火器であるのも事実である。貧しい国がその限られた資源を軍備拡張のために使うことによって、より貧しくなる一方で、富める国は自国の軍事的優位性を保つために世界全体の保健プログラムを犠牲にしている。こうした現実に立ち向かうために、IPPNWは各国支部を通じて、自らに課せられたグロ−バルな使命を再認識し、アフリカにおける対人地雷と小火器の広範な人々への影響を論じ、旧ユ−ゴスラビアとイラクの紛争地域に代表団を派遣した。
各国の軍事力によって国際関係が支配されるあり方に終止符を打つための規範となり、リ−ダ−シップを発揮すべきであるのは、最も豊かな国々であると我々は考える。IPPNWはこの考えに基づき、核保有国の意思決定者たちとの対話を求めてきた。アメリカの連邦議会は、これまで核関連の条約と対人地雷条約の批准を拒む一方で、既存の核兵器の臨戦体制を維持し、弾道迎撃ミサイル条約に違反するNMD構想のテストをすら計画中である。これは、他国の核軍縮ならびに通常兵器の軍縮の努力に水をさすものにほかならない。IPPNWの次回世界大会を、2002年5月にワシントンD.C.で開催することによって、こうした政治的停滞の背後にある思考と直接対決する機会を得ることになる。
医師である我々は、人々により健康な世界を約束する力強いメッセ−ジを届ける努力をする。その一環として我々は、ハ−グ平和と正義の21世紀アピ−ルを人々に送った。IPPNWを世に生み出す力ともなった、この医師たちの国家間の不信と敵対を乗りこえた協力の新たな結実に、我々は感動を覚える。南北朝鮮の医師をパリに迎え、朝鮮半島の平和統一に向けた彼等の努力を可能な限り支援することをIPPNWは約束する。
一般市民の認識あるいは理解がどのように形成されるかは、提供される情報次第であり、戦争への準備から利益や恩恵を受けるものたちの手によって、容易に操作され得ることを我々は認識する。平和運動を促進するためには、IPPNWによる新たな研究や活動が不可欠であり、我々の最も重要なメッセ−ジがどこまで人々に届いたのかが試されることを意味する。我々は、人々の命に与えるすべての戦争の影響を研究するとともに、戦争をもたらす根本原因と、戦争を決して認めないために早い段階から行動し主張する戦略を、これまで以上に追及し、軍事紛争防止のための方法を模索する。
遠い将来への影響を考慮せず、短期的な利益のみ追求する人間の愚かさを、命と健康を預かる医師はよく理解している。傷ついた地球がさらに壊れていくのを止めるためには、豊富な情報をもとに、戦争が人類と地球環境に与える致命的な影響を理解し、目先の利益のために戦争を計画し実行するものと対決しなければならない。我々の使命は重く、道は長い。ここパリの地で、我々は互いを力づけ決意を新たにした。今後も世界平和のためにたたかい続けると。