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日本の核武装論とエネルギー政策〜六ヶ所核燃料サイクル施設との関連〜

        青森民医連 八甲病院長  山崎照光

1.中曽根元首相が自著で日本の核武装の可能性検討を明かす

 04年6月25日、中曽根康弘元首相による自著「自省録ー歴史法廷の被告としてー」が発売された。その中で彼が防衛庁長官だった1970年に日本の核武装の可能性を防衛庁に研究させていた秘話を明らかにした。「当時の金額で2000億円、5年以内で核武装できるが、実験場を確保できないため現実には不可能」との結論に達したという。

 彼は核武装を「これまでも一貫して否定してきていますし、今でも変わりません」と言明する一方で、「今後、アメリカが日本のために核防護をやめるようなことになった場合は、日本も核武装の可能性も含めていろいろの可能性を検討しなくてはならない」とも述べており、内外に大きな波紋を投げかけている。

2.日本における非核三原則

 1967年(昭和42年)12月、沖縄返還にかかわる在沖縄米軍基地の核兵器が国会で問題になった時、原子力潜水艦の日本寄港とあいまって、当時の佐藤栄作首相が「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まない」と答弁したのが最初である。

 1971年(昭和46年)11月、衆議院本会議で「非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する決議」を採択。この決議は「1.政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずの非核三原則を遵守するとともに・・・・」という内容。また 1976年(昭和51年)の核拡散防止条約(NTP)批准にあわせ、衆参両院外務委員会が同年に「非核三原則は国是として確立されていることに鑑み、いかなる場合も忠実に履行、順守することに政府は努力すべき」と決議している。以後歴代内閣は、非核三原則を国是として堅持してきた。(「持ち込ませず」に関しては、原則が破られている。核兵器搭載可能な米国の艦船が横須賀や佐世保に停泊することは日常茶飯事であった。また三沢や嘉手納の米軍基地には核攻撃ができる戦闘機が配備されている。)そのため、1999年10月に週刊誌『プレイボーイ』の対談で「核武装論」発言をした当時の西村真悟防衛政務次官(自由党)が更迭されている。 

3.その後の核武装発言

 02年5月13日、安部晋三内閣官房副長官(当時)が早稲田大学の「大隈塾」で講演した内容が週刊誌『サンデー毎日』に掲載された。有事に国民に基本的人権が制約されると断言し、核兵器や大陸間弾道ミサイルも憲法上は問題ないとするものである。 「平和の祭典」といわれる日韓共催のサッカーのワールドカップの開会式を目前に控えた02年5月31日、福田官房長官(当時)はオフレコで「憲法改正を言う時代だから、非核三原則だって、国際緊張が高まれば、国民が『もつべきではないか』となるかもしれない」とのべ、世論の動向次第では、将来、見直しが政治課題になる可能性を示唆した。 こうした政府首脳の相次ぐ核武装の可能性を示唆する発言は、断じて見過ごすことはできない。また02年4月当時、自由党党首であった小沢一郎氏が「その気になれば日本は原発のプルトニウムで何千発分の核弾頭を作れる」などと発言している。 さらにアメリカのチェイニー副大統領(03年3月)やタカ派のコラムニス、チャールズ・クラウトハマー氏(03年1月)なども日本の核武装をけしかけるような発言をしている。 一方、民間でも核武装論が出始めている。「北朝鮮に拉致された日本人を救出する全国協議会」(救う会)の佐藤克巳会長が、東京での「拉致問題」の集会で「北朝鮮の核開発に対抗して、日本も核ミサイルを持つべきだ」(03年2月18日)と発言している。

4.核燃料サイクル政策と核武装

 02年12月末時点で日本には、使用済み核燃料を再処理して得たプルトニウムを国内に5.4トン、フランスとイギリスに33.2トン保有している。国際原子力機関(IAEA)の試算だと、核弾頭を製造するのに必要なプルトニウムは一発当たり5〜9kg。

日本国内にあるプルトニウムだけでも、500発以上は作ることができる。

 日本のH2ロケットは液体燃料のために弾道ミサイルへの転用は難しいが、03年5月に小惑星探査機を打ち上げたM5ロケットは固体燃料を使用しており、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)そのものだ」と有名な軍事評論家の江畑謙介氏は述べている。

 高速増殖炉実験炉「常陽」の使用済み核燃料の再処理で兵器級プルトニウムが抽出されている。高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開に政府がこだわるのは、兵器級プルトニウムを取り出そうとしているからだと指摘している学者もいる。 

 またウラン235の濃度がどれくらいあれば、核爆弾(広島型)になるのだろうか?  100%近く濃縮されたウラン235の臨界量=爆発可能量は15kgである。20%程度に濃縮されたウラン235でも、250kgあれば臨界に達する。したがって、ウラン235が20%以上のウランは核兵器転用可能物質となる。現在、青森県六ヶ所村で運転している遠心分離式のウラン濃縮施設で、20%の濃縮ウランも、さらに100%近い濃縮ウランの製造も十分可能である。 プルトニウム核爆弾(長崎型)の場合はどうか?原子力発電所から出る使用済み核燃料の再処理によって取り出されたプルトニウムでも、核爆弾の製造は十分可能である。原子炉の運転で作られるプルトニウムは、ほとんどプルトニウム239である。六ヶ所村に建設された再処理工場は、当初の計画から大幅にのびて本格操業が現時点では06年5月から予定されている。このまま再処理工場が稼働すれば日本のプルトニウム保有量は増えるばかりである。このプルトニウムを使う高速増殖炉「もんじゅ」は運転中止したままだし、プルトニウムとウランを混ぜてMOX燃料として既存の軽水炉原発で使おうとしているプルサーマル計画も頓挫したままである。

5.ITER(国際熱核融合実験炉)も核武装のため?

 今、ITERの建設地をめぐって、日本の六ヶ所村とフランスが国際的に激しい誘致合戦を繰り広げている。核融合とは重水素とトリチウムの核反応である。六ヶ所村にITERを建設できれば、日本人にトリチウム技術の習得ができる。また、この実験のためにトリチウムを3kg確保してもよいことになる。これは、水爆で必要とするトリチウムの約1000発分、中性子爆弾なら約100発分を確保できる。

6.今後何をなすべきか?

 被爆国として世界の平和や核兵器の廃絶のために積極的な役割を果たす立場にある日本において、これと逆行するような核武装論が政府や民間から台頭してきている。先の国会では十分議論もしないままに有事関連法案が成立した。今年6月のサミットで小泉首相がイラクに派兵した自衛隊を国会で議論もしないで、勝手に多国籍軍の指揮下に入れることを約束してきた。また自民党のみならず民主党までもが憲法第九条の改訂をもくろんでいる。 いまこそ平和運動を積極的に展開する時であるし、またこれと関連している日本のエネルギー政策とりわけ核燃料サイクル政策に対しての反対運動も連動して取り組んでいく必要がある。