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16th IPPNWに参加して

2004年9月23日 耳原総合病院院長 松本 久


米国への批判

 9月17日のオープニングセレモニーにて、Dr.Lu Rushan先生は、多国主義に相対するものとして米国の一国単独主義を批判し、国連の重要性を強調した。さらに、経済のグローバル化と富の分担に関しても重要性を強調し、「1日1ドル以下で10億人の人が生活している」実態を述べた。NcCoy先生(IPPNW議長)は、米国が9.11を国際司法裁判所への訴えでなく、アフガン・イラク戦争を引き起こしたことを批判した。また、平時の人権を守る国際人権法と捕虜の人権を守る国際人道法の重要性を強調した。これは、イラクだけでなく、ルワンダでもクローズアップされていると述べた。

 また、広島の秋葉市長は、被爆者はきわめて困難な中でも生きることを目指した。そして勇気を持ってその経験を世界に訴え続けた。そして決して報復という手段に訴えなかった。これは、平和憲法に支えられたものだった。被爆者は世界を敵視していない。しかし、9.11以降、世界は報復の連鎖に入っている。イラクに関していえば、きちんと査察が実行できていたのに戦争を開始してしまった。法による支配でなく暴力に訴えたしまったと述べた。

 IPPNWから帰国して、21日に行われた第59回国連総会発言の報道があった。アナン事務総長は「今日、世界中で法の支配が脅かされている」と強調した。それに先立ち英国BBC放送とのインタビューでは、安保理決議を経ないで突入したイラク戦争は「国連憲章に照らしても違法」「国際社会の総意を得ていない」と断罪した。


帰国して…小泉発言のこっけいさ

 このような中、小泉首相は安保理常任理事国入りを目指してなりふりかまわぬ意欲を示している。自衛隊派遣を始めとするアフガン・イラクへの米国の後押しを、日本が行った「不断の努力」として絶賛し、「わが国の果たしてきた役割は、安保理常任理事国となるにふさわしい確固たる基盤となる」と演説した。小泉首相の強調する「安保理常任理事国となるにふさわしい確固たる基盤」そのものが、「国連憲章に照らしても違法」「国際社会の総意を得ていない」米国への盲従であることをどう理解しているのだろうか。

 イラク派兵を実施していた、スペインやニュージーランドが撤退、さらにオランダ軍も来年撤退を予定。世界のあちこちで良識ある人々が、9.11以降の米国の国際法や国連を無視した行動への批判が強まる中、小泉政権の示す意欲の方向はきわめてこっけいであり、日本人の恥とも言える。


非核への展望はあるのか?

 秋葉広島市長は、原点は広島・長崎の被爆であるとして、被爆実態のスライドを示した。そして今、その記憶が忘れ去られようとしていることへの危惧を示した。広島・長崎プロジェクトとして、大学に広島・長崎の被爆のカリキュラムの必要性を述べた。また、ユダヤ人虐待のホロコーストも含めて米国大学教授との共同行動の提起などを行い、これらの取り組みの中で、被爆者の記憶を聞くプロジェクトとしたい旨を述べた。また核兵器廃絶のための緊急行動の呼びかけを行った。秋葉市長の発言終了後は、拍手が鳴り止まなかった。被爆地広島市長の、核廃絶を求めるきわめて明快な、世界へのアピールであった。

 17日のシンポジウム:朝鮮半島の核危機というシンポジウムでは、北アジアの非核地帯への提言が複数行われた。この討議で日本の武井先生が、北アジアの非核のためには、沖縄の米軍基地が極めて重要な問題となることを述べた。さらに、今回初参加のモンゴル代表のNyamsuren Tuvshinbatは、非核宣言を行ったモンゴルの取り組みを紹介した。ロシアと中国という二大国にはさまれて核や武力の脅威にさらされていたモンゴルは、武装化の方向を選択しなかった。モンゴル政府は非核宣言を行い1993年に、ロシアと中国政府にそれを認知させることができたと報告した。

 9月17日のワークショップ1-3にて、今回の私たちの団長である松井先生が、Missile Defense : from Japan’s Point of Viewと題して報告発言を行った。東京が北朝鮮から1100kmという近距離で北朝鮮のミサイルの脅威にさらされている。しかし、これを北朝鮮の側から見るとどうなるか?沖縄から北朝鮮までも、同じく1100km。横須賀からも1100km。北朝鮮は、50年以上ずっとこの脅威にさらされているとう視点を示した。日本の中から一方的に世界を見ていても理解し得ない卓越した視点であった。

 北朝鮮の医師が今回のIPPNWに参加していないのは、とても残念であった。北アジアに非核地帯をという運動を、北朝鮮の医師たちも一緒に議論できたらと、誰もが感じたことだろう。北朝鮮や韓国、中国の医師たちと、戦争や核廃絶のテーマでなくても、医療の交流からでも民間レベルでの交流を深めて行くことが重要であると感じた。

 さらに、アジアの非核化や平和を考える時に、改めて日本の姿勢が重要であることを再認識した。非核三原則、平和憲法の遵守、さらに日米安保条約を廃棄し、沖縄を始めとした日本からの米軍基地撤去の重要性が自分の心の中で鮮明になった。どこへでもミサイルを発射でき、どこへでもすぐに派兵できる米軍の「浮沈空母」沖縄がアジアの真ん中に存在することは、アジアの真の平和建設にとっては大きな障害である。ジュゴンと青い空、人々の笑顔が絶えない本当に平和な沖縄の建設は、アジアの平和と非核化と同じベクトルの上にある問題であるとの思いを強くした。