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原爆症を巡る裁判への私たちの立場

東京反核医師の会 向山 新


 現在日本では、140名を超える被爆者が自分たちの疾患が原爆が原因であることを日本政府に認めるよう求めて、原爆症認定集団訴訟を行っている。すでに被爆後60年になろうとする今になって、なぜ原爆症の認定を求めるのかと思われるかもしれないが、多くの被爆者は今なお原爆による後障害に苦しめられているのである。日常的に被爆者の診療に関わっている医師として、私たちはこの裁判に医学的な立場から支援に立ち上がっている。

 日本政府は、DS86の線量評価法に基づき、原爆放射線が各疾患の発症に関与したかを「原因確率」を算出して推定し、原爆症の認定に採用している。DS86の線量評価法では、原爆放射線の影響は2km以遠には及ばないとされており、誘導放射線や残留放射線の影響を考慮していないのである。つまり、遠距離で被爆した人たちや、被爆直後に爆心地に入り家族を捜したり、救援活動をしたりした人たちについては放射線の影響はなかったというのである。そのような被爆者はたとえ癌になった場合でも原爆症とは認められないのである。

 しかし、遠距離被爆者や、入市被爆者にも急性放射線障害の症状が現れたという事実は、当時自らも被爆しながら救援活動を行った医師たちの記録などからも明らかである。このことは、初期放射線に加えて、誘導放射線や残留放射線による相当程度の被曝があったと考える以外には合理的な説明がつかない。

 また、原爆傷害調査委員会(ABCC)から引き継ぎ、放射線影響研究所が使用している寿命調査(LSS)や成人健康調査(AHS)などの基本資料にも科学的信頼性に疑問をはさむいくつかの根拠がある。たとえば、癌発症の増加の有意差を評価する資料には、最近10年間の死亡率や発生率の増加が反映されていないこと、疫学調査の対照群の選定において遠距離被爆者や入市被爆者が比較対照群に組み込まれているといった、統計上のバイアスが生じている可能性が否定できないこと等である。

 これらの問題について、物理学者、統計学者の協力を得ながら、多くの被爆者が救済されるために医学的な立場からの意見書を提出することになっている。

 なお、弁護士グループが日本被団協のノーベル賞受賞へ向けて、ロビー活動を始めていることを付け加えておく。