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広島・長崎の遠距離被爆者、入市被爆者の放射線について

東京反核医師の会(Tokyo Physician for Elimination of Nuclear Weapons)

核戦争に反対する医師の会(Physicians Against Nuclear War)

向山 新 Arata Mukoyama

 現在、日本各地で広島・長崎の被爆者が原爆症の認定を求めて裁判を起こしており、私たちPANWのメンバーが医学的立場から意見書を提出したことは、第16回IPPNW大会で報告した。

 私たちの意見書では、被爆直後に現地で救援活動にあたった医師達の記録を検討し、遠距離被爆者、入市被爆者にも脱毛などの明らかな急性放射線障害の症状が出現し、これらの被爆者においても相当量の被曝を受けている可能性が高いことを示した。そして厚生労働省が根拠としているDS86による被爆線量評価が、あくまでも初期放射線量をシミュレートした物であり、残留放射線による低線量被爆や、内部被爆を切り捨てていることを批判した。また、この被爆線量を根拠にした「過剰相対リスク」や「原因確率」についてもいくつかの問題点を指摘した。一つは、対照群としてDS86に基づいて設定されたゼロ線量被爆者の多くが遠距離・入市被爆者であり、非被爆者との比較対照となっていない点である。また、癌死亡率や発症率などのデータが1987年までの資料に基づいており、ここ10年余りの癌死亡や発症の増加などが考慮されていないこと、さらに疫学的なデータを一人一人の被爆者の放射線起因性評価に当てはめるという疫学の適用上の問題点を指摘した。

 また、最近の医学文献に基づき、遅発性の原爆白内障がしきい値のある確定的影響による傷害ではなく、癌と同様に確率的影響によって生じることを示し、前立腺癌、甲状腺機能低下症についても低線量被爆の発症への影響を指摘した。さらに被爆者には、多重癌の発症が多い可能性があること、脳血管障害、虚血性心疾患、慢性肝炎・肝硬変などの非癌疾患についても、放射線起因性が認められることを示した。

 2006年5月12日大阪地方裁判所、8月4日広島地方裁判所の二つの判決は、いずれも原告全面勝利となった。その内容は、私たちの意見書を全面的に採用し、遠距離被爆者、入市被爆者の申請疾病を残留放射線による原爆症と認定し、非癌疾患についても原爆放射線による起因性を認めた画期的な判決である。

 日本政府はこれに対して「判決がどうであれ、科学的で公平な現在のシステムを見直す必要は全くない」との立場から控訴を行った。このような態度を示す日本政府が、核兵器廃絶を求める運動でのイニシアチブを取ることができるはずがない。

 私たちは、引き続きこの裁判を支援するとともに、日本政府への働きかけを強める必要があると考えている。

 この裁判は、原爆投下から61年を経た現在においても、多くの被爆者が被爆による健康被害から逃れることができないことを示している。私たちが意見書で示した事実を、二度と核兵器が使われないための活動をすすめる根拠として世界中の医学者が理解し、広めてゆくことが必要であると考える。

http://www.min-iren.gr.jp/search/03heiwa/hibakuiryo/genbaku_e1.html