ミサイル防衛に対する IPPNW の見解



ブッシュ政権の、いわゆる「ならず者国家」の核攻撃に対するミサイル防衛への執着は、国家安全保障を促進するという公約と矛盾しており、持続的な核兵器中毒である。 ブッシュ氏は広範多層ミサイル防衛システムを追求しており、それは、政権の主張とは反対に、核戦争の危険を増大させ、世界中に核兵器の拡散をたきつけ、合衆国と敵の間の軍事的政治的対立を悪化させ、さらに同盟国の多くから合衆国を遠ざけ、しかも何千億ドルもを浪費するだろう−− すべてが約束するような防護ができもしないシステムのために。

 

 要するに、ミサイル防衛は危険、無駄、高価な、ハイテク・ダックであり、皮肉にも核弾頭ミサイル攻撃から守って欲しいという国民の当然の願望にアピールする体系を包み隠すものである。 けれども、児童には机の下に隠れなさい、父兄には死の灰退避シェルターを建てるようにと言うことで、市民が核戦争から生き残ることができるのだという神話を過去数十年も永続させてきたように、ミサイル防衛が安全保障への誤った認識を植え付けるだろう。 核兵器の使用は、核戦争計画の論理の変質のために、起きにくくなるどころか、より起こりやすくなる。

 

 もし合衆国が本当に世界の安全保障に責任を果たすのなら、包括的核実験禁止条約を批准し、核兵器を廃絶するという非拡散条約の約束を実現していただろう。 米国は北朝鮮との枠組み交渉を継続し、他国による核兵器開発を妨げることになる予防措置制度を支援し、改善するように働きかけていただろう。 その代わりに、合衆国は明らかに合衆国及び世界の安全保障を害することになる実現不可能な防衛空想を追求する計画を立てている。

 

 この見当違いのシステムにより何千億ドルもを儲ける立場にある防衛産業と密接な関係を持つドナルド Rumsfeld 国防長官のような政府高官が、ABM条約は「骨董品」であると論じている。 反対に、冷戦時代の破綻した国家安全保障の概念に頼る政策こそ本当に時代遅れの遺物である。 実際、ブッシュ氏は冷戦時代の論理を放棄せず、合衆国の核戦力維持を計画し、合衆国安全保障政策における核兵器の「極めて重要な役割」を強調している。 むしろ、彼は大金とイデオロギーに導かれて、現戦力に扇情的な新しい要素を付け加えようとしている。

 

 核戦争の防止を世界の安全保障政策の礎石にするために20年以上も活動してきた医師として、我々は人口密集地で核爆発が起きたらどうなるか、恐ろしい詳細を知っている。 ニューヨークのような都市でたった一発の核兵器が爆発しても、3百万人の人々が即死し、さらに何百万人もが負傷するだろう。 致死的な放射性降下物のために、何年にもわたり、さらに何百万人もが病気になり、そして死亡するだろう。 医療関係職はこのような荒廃に直面して無力であろう。

 

 研究してきた、そして、ある場合には、広島・長崎に合衆国が落とした原子爆弾の犠牲者を治療しさえした医者として、核爆弾の医学的、あるいは環境上の結果から人々を守る深い願望を共有する。 まさしくそのことから、我々は世界の兵器庫から核兵器を無くすことだけがその結末から逃れる有効な防護策となると信じる。

 

 レーガン政権のオリジナルのスターウォーズ計画やクリントン大統領が賛成した地上迎撃ミサイルを含め、今までに提言されたあらゆるミサイル防衛案には致命的な欠陥があった。 ブッシュ政権によって提案された、陸上、海上、そして宇宙からのコンポーネントによる新しいミサイル防衛ネットワーク構想は以下の理由で核戦争の危険を増やす:

 

* ミサイル防衛は他の核保有国には自身の安全保障に対する脅威として映り、条約の責務尊重どころか、核兵器増産に繋がるだろう。 特に、ロシアにSTART II 合意の削減案を放棄させるだろうし、中国には比較的少ない核兵器貯蔵量を増加させる口実を与えることになるだろうし、インドとパキスタンの間ですでに熱くなっている核軍備競争に油を注ぐことになる。というのも、インドは中国の軍備増強に即反応するだろうし、パキスタンはインドの後に続くであろうから。

 

* ABM条約の放棄は、米国政府はミサイル防衛を配置するためであると明言しているが、核兵器削減のための基礎を崩すことになる。

 

* ロシアにUSミサイル防衛受諾の説得に努める中で、合衆国の交渉者はロシアの一触即発警戒体制下の多数の核兵器を維持するよう奨励している。 彼らは、実際に「この計画はロシアに向けられたものではなく、また、ロシアはそれを圧倒する核兵器を持ち続けるのだから、ロシアは我々のミサイルシールドのことを心配しなくてもよい」と言っている。 これは多数の核兵器が永久的に風景の一部となることを保証し、そして偶発的あるいは誤解による発射の可能性を増加させる。 廃絶への過程として、核兵器の警戒体制からの解除は核惨事を防止する上で不可欠である。 何千という核兵器を数分以内に発射できるように維持管理することは今日の世界で何の意味もなく、そして1日に24時間、週に7日、年に365日間我々すべてを非常に現実的な危険に曝している。

 

* 前のNMD(米本土ミサイル防衛)計画により、中国は、貯蔵核兵器の増加に加えて、危険な軍事科学技術の輸出中止合意を撤回するであろうと述べている。 換言すれば、合衆国が防衛力増強の必要性がある脅威であるとみなしたまさしくその国が、もし合衆国が拡大多層ミサイル防衛システムを追求するなら、軍事的見地から、よりいっそう脅威となるだろう。

 

* 名前にもかかわらず、ミサイル防衛は単なる防御的システムではない。 「2020年へのビジョン」と呼ばれる米国宇宙軍の長期計画は合衆国が、自身の軍事と商業目的のために、宇宙を武装化し、他国の宇宙へのアクセスを拒否する計画である。 これは宇宙条約違反であるというだけではない、ミサイル防衛の真の目的を明らかにしている:宇宙軍事化の始まりであり、防衛という仮面をかぶった前例にみないグローバル攻撃システムの一部であるという。

 

 世界の国々− 特に南の貧困国 − は市民に健康管理、教育、環境保全と適切な生活水準を提供するためのリソースを見いだそうと苦闘している。 合衆国でさえ、ヘルスケアーが何百万という人々の手が届かないところにある。 米政権が、それは、せいぜい、ありそうにもない類の核脅威に対して単に部分的な防御だけを提供する武器システムに何千億ドルもを使うことを提案するために、他方では、国内、国外で、ヘルスケアーと他の不可欠な社会的に必要な予算をカットすることは道徳的に許すことはできない。

 

 公正にいうと、米国の政権は同時に貯蔵核兵器の実質的かつ一方的な削減も提案した、そしてこのことは確かに正しい方向への望ましいステップである。 「信用できる抑止力」への進行中のコミットメントは、しかしながら、それが主張しているように、政権が冷戦政策から変わっていないこと示している。不幸にも一方的削減がリンクされたミサイル防衛計画のように、、ブッシュ政権の今の安全保障政策は、脅威、特に核脅威に反応した国際協力を妨げるであろう安全保障への孤立主義者的アプローチを反映している。 世界の国々は − 核保有国も非核保有国も同じように− 国際法の枠組みの中で行われる削減を通してより信頼するようになるだろう。

 

 米政権は「柔軟な」貯蔵核兵器を求めている。 これは米国軍が地域紛争− 特に化学的、生物学的兵器の対抗策として、で使うことを望む小型で低出力の核兵器(いわゆるミニニューク)の開発と生産以外の何ものでもない 。 この危険な政策シフトは地球規模の「ミニニューク」拡散の水門を開くこととなり、1945年以降なかった核紛争をもたらすことになるかもしれないし、間違いなくあらゆる核兵器使用の閾値を下げることになるだろう。

 

 ABM条約放棄を企図する米国の方針は法的責務から逃げる憂慮すべき傾向を反映している。 合衆国による最近の動き、包括的核実験禁止条約批准の拒否を含め、北朝鮮との枠組み交渉の中止、国際刑事裁判所の妨害工作、気候変動に関する京都議定書の拒否などは、他国の関心事を完全に無視していることを示している。 国際安全保障に関して「技術的な修理」など存在しない。 ますます相互依存を深める世界でグローバルな安全保障を追求する唯一の方法は協力的取り決めと不可逆性、透明性、互恵と説明義務の原則に基づいた信頼性の構築の処置を通してである。

 

 IPPNW は核兵器の存在により永久に安全保障されないようになる世界にミサイル防衛を配置する米国の構想を明確に非難する。 完全に脅威を取り除くという共通の目標に関して協力するよりも、まさしくその最後の瞬間にだけ敵攻撃に反応することに頼る核防衛政策は、防衛などといえたものでない。

 

 世界的な核兵器廃絶は核攻撃の可能性のない安全を得る唯一の現実的な方法である。 ミサイル防衛は拡散の防止、包括的核実験禁止条約の実施、核分裂性物質生産カットオフ条約の交渉と実施、そして2000年の NPT レビュー会議の決議で支持された13ステップの軍縮プログラムの実行− すべてが査察可能な国際条約を通した核兵器の世界的な廃絶に向かうのだが、それらの努力を増強する代用ではない。

 

 拡散防止条約に加入する合衆国、他の核保有国、残りの187の国は、2000年の NPT レビューの際に核軍縮のプロセスを完了する「明確な約束」にコミットメントした。 ブッシュ政権によって追求されているようなミサイル防衛はその目的からの寄り道ではなく、それはその道筋での重大な障害物である。

 

2001年月2日