☆☆☆ つどい基調報告 ☆☆☆
松井和夫(共同代表世話人)
T)核をめぐる最近の状況
この1年間の核をめぐる状況を振り返ってみると、残念ながら明るい話題がほとんどない。前進したのは、昨年キューバがトラテロルコ条約に加盟し、ラテンアメリカ・カリブ地域の非核化が達成されたこと。また、同時にキューバが核不拡散条約(NPT)に加わったことである。
核兵器が通常兵器並に
冷戦終了後、核兵器は「核による先制攻撃への抑止力として必要」という口実がなくなり、存在理由を失くした。核保有国は新たな敵、新たな存在意義を模索し、その結果「テロへの戦争」という理由をつけ核兵器を保有しつづけ、さらに改良を続けている。核使用の敷居を低くし、通常兵器並に扱われようとしている。それは必然的に核拡散、核軍拡をもたらしている。
昨年、アメリカの核ドクトリンが変更された。すなわち核の位置付けが、核に対する抑止力から生物・化学兵器の抑止へ、また先制攻撃も辞さないと変更され、今年になってインドがそれを追随した。
アメリカも日本も最近は「核兵器」という言葉の変わりに「大量破壊兵器」という言葉を好んで使っている。これは生物・化学兵器と核兵器を同列に扱い、生物・化学兵器への反撃に核兵器を使用することに正当性を持たせようとするためである。そして、「核兵器は特別なものではない」「アメリカだけが改良を続けているのではない」と印象付けようとするためだと指摘されている。
さらに、アメリカでは昨年暴露された核政策見直し(NPR)を実行する形で、低威力核兵器の研究禁止(ファース・スプラース条項)の撤廃と開発プログラムの開始を決定した。また強化型地中貫通核弾頭(RNEP)の開発も始まった。これらは、小型化により放射線被害が少ないかのように宣伝されているが全くの欺瞞で、実戦で通常兵器並に核兵器を使用しようとする、明らかにNPT合意に背く行為である。ミサイル防衛の配備決定もした。これらの行動に対して日本政府は何ら抗議の意思を示していない。
暴力の時代が続いており、その悪循環は新たなテロや軍拡を招いている。
危機に瀕するNPT体制
2000年のNPT再検討会議では核保有国は核廃絶への明確な約束をし、核廃絶に向け大きく前進した。しかし、アメリカのブッシュ政権は、世界支配のために圧倒的な軍事力を保持しようとし、その中心に核兵器を位置付け新型核兵器を開発しようとしている。そのために、障害となる核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)を否定し無力化を狙っている。2000年の再検討会議では核廃絶に向け大きな前進が見られたが、2005年の次回NPT再検討会議でも引き続き廃絶に向け前進させることができるか非常に難しい状況になっている。最悪は崩壊の可能性もある。
NPT準備会議(4/28〜5/9ジュネーブ)ではNGOの公式セッションが設定されたが、一方ではアメリカが強硬にNGOの締め出しを図った。さらにアメリカは「国際社会は核廃絶のみで、核不拡散に積極的に取り組まない」と手前勝手な議論を展開。日本はモスクワ条約を積極的に評価するだけで、その問題点には全く言及せず、アメリカの核実験再開準備にも触れなかった。一方新アジェンダ連合(NAC)はモスクワ条約を評価する一方で、同条約の問題点を指摘。さらに、非核保有国に対する核不使用という法的拘束力のある安全保障(いわゆる消極的安全保障)について具体的な提案をした。前回再検討会議で05年提案が合意されており、消極的安全保障が次回NPT再検討会議の中心となる。
アメリカはCTBT(9月ウイーン)促進会議も連続ボイコットしている。
アメリカでは、地下核実験の実験準備態勢、RNEP研究、プルトニウム・ピット生産増強および新施設建設などの予算が議会承認された。これらは、いずれも2000年NPT合意の「核兵器廃絶」に逆行し、「核兵器の役割縮小」「不可逆性の原則」に明らかに違反するものである。
2005年の再検討会議はどうなるか。地雷廃絶キャンペーン(ICBL)の時のようにNGOとNACとの共同した運動も模索されておりこの動きを注目する必要がある。
テロとの戦争を口実にする各国政府
「テロとの戦争」を唱え、国益を優先させ、連帯・共生・相互信頼を蔑ろにする政治が世界各地で行なわれている。
各国で少数民族弾圧の口実につかわれ、アメリカ国内でも批判するものをテロリスト扱いし、言論が弾圧されている。イスラエルのパレスチナ占領の正当化にも使われている。
テロは容認されるものではないが、都合の悪いものをテロリスト呼ばわりし、行為を正当化しようとする行為は、許しがたい。
国連
国連はイラク戦争で、米・英の横暴を止められなかった。しかし、唯一の有効な国際機関であることに変わりはない。今回の戦争ほど国連の意義・存在について広く議論されたことはない。
国連が機能するためには、常任理事国に手前勝手な拒否権を使わせないように世論を高める必要がある。核廃絶に関しても日本政府が国連などで被爆国政府としてふさわしい行動をとるよう監視する必要がある。国連に無力感を持ってはいけない。
北朝鮮
核という危険な「外交カード」が「核保有による抑止」へと最悪のシナリオをたどっている。IAEA査察官の国外退去(12/28)、NPT脱退宣言(1/10)、あっという間に核保有宣言を行なうまでになってしまった。その根底には、米朝・日朝間の相互不信があり、それが双方により意図的に拡大されている。
北朝鮮に核開発を絶対許してはならない。しかし、日本政府の態度は腰が引けている。六カ国会議でも拉致問題に矮小化し、本題である核開発を中止させる具体的な提案も説得もできないありさまであった。
アメリカは朝鮮半島の非核化案も考えていると伝えられているが、今こそ、日本も含め北アジアを非核地帯にする時である。北アジア非核地帯構想について大いに宣伝しよう。
また、相互不信を取り除くため、市民の親密な交流が求められている。
イラク
米・英は国際原子力委員会(IAEA)や国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)を信頼せず、査察の継続を拒否した。しかも、両国が存在を主張した大量破壊兵器は発見されていない。査察を信頼しないということは、IAEAの査察が大前提であるNPTによる核廃絶への道を否定する暴挙でもあり、許しがたい行為である。
国連を無視して先制攻撃し、核兵器が使用される可能性もあった。
核バンカーバスター使用の可能性とその安全性も唱えられた。しかし、IPPNWのレポートにもあるように大規模な被爆が起こることは必至で、もし、生物兵器が存在すれば、細菌が広範にばら撒かれる危険も大きい。
先の湾岸戦争で使用された劣化ウラン(DU)が原因と考えられる悪性腫瘍の著明な増加も次々と明らかにされている。
不幸なことに、今回の戦争でも大量のDUが再び使用された。
日本
イラク戦争で日米同盟が国連より優先された。
有事法が成立し、政府は公然と改憲を口にし第9条をなくそうとしている。
アメリカのミサイル防衛(MD)に関して日米共同技術研究が新たな段階を迎えている。アジアにおける軍備拡大を誘い、軍事的緊張を高めるものである。
小泉新内閣では核に対し容認する態度の者が政府・与党の重要なポストを占めている。
郭貴勳さん訴訟の関して、厚労省が上告を断念するなど被爆者問題にも少しは前進があるが、相も変わらず被爆者に対し、冷たい態度を取り続けている。
被爆者集団提訴では現在500名が申請し、100名余りが集団提訴に加わっている。
今、アメリカは世界の基地の見直しをしているが、名護新基地建設を強行しているように、沖縄の基地を維持、強化しようとしている。北朝鮮は近く、嘉手納からは毎日38度線近くまで爆撃訓練に行っている。
U)つどいの活動を振り返って
以上のような状況のもと、「つどい」としてこの1年間、様々な活動を行なってきた。
最初に取上げたいのは、3月15日にこの沖縄に新たに「核兵器・核基地をなくす沖縄県医師・歯科医師の会」が誕生したことである。2000年に、四国の香川、愛媛で結成されたのに引き続きの結成。これで、全国に27の「反核医師の会」ができたことになる。
機関紙・報告集の発行
94年以来中断していた「医師・医学者のつどいニュース」を5月に復刊1号(通算24号)を発行し、9月には復刊2号を出した。また、編集部を立ち上げ(編集長:池内春樹常任世話人)、今後定期刊行できる体制を作った。2つの号は普及させることを優先させ、原則無料配布した。
第13回集い(松山)の報告集も発行(8月)、送付した。現在コスタリカ報告集の編集中である。
コスタリカ訪問
8月10日から17日までの日程でコスタリカ訪問旅行を主催した。参加者は37名で、老人病院、小児病院とリハビリセンターの3国立専門病院を訪問。また、医療と医療保険制度の実施機関であるコスタリカ社会保障公庫の医療制度改革に関するプレゼンテーションを受けた。
軍隊を捨てた国コスタリカには「誰もが、いつでも安心して医療にかかれる医療体制」があった。それゆえに発展途上国にもかかわらず、国民は先進国並に健康的であった。訪問旅行全体を通してコスタリカの「すべての人の人権を尊重する姿勢」を学ぶことができた。また、IPPNWコスタリカ支部と交流を深めた。モンテベルデ自然保護区ではコスタリカが自然と共生しようとする姿に参加者は感動した。速報として復刊2号のニュースで紹介したのでご覧頂いただいていると思う。詳しくは今後報告会、報告集、ウエブサイトでも紹介する予定である。
申し合わせ事項(案)の作成
本会の誕生以来、具体的活動は、その時々に世話人会等で討議、最善と考えられる方針が採用され、協力可能な団体と共同しておこなってきた。核兵器廃絶運動に関し、全国の各都道府県「反核医師の会」の活動姿勢や実情等は大きく異なり、全国的運動に関しても全国組織、地方支部という関係をとることは得策ではなかった。それらの理由などから明文化された運営上の規則等を定めず、適宜活動方針を決めてきた経緯がある。しかし、そのことが全国組織としての「反核医師のつどい」そのものがわかり難い、あいまいとした姿と捕らえられる原因ともなっていた。
また、「つどい(組織)」と「集い(全国大会)」が紛らわしいなどの声もあり、特に若い人の間で「つどい」をすっきりしたものにして欲しいという要望がある。
このようなことから、「つどい」に関する申し合わせ事項を定めたほうが良いと判断し、(案)を作成した。この案は常任世話人会で何度も討議を重ね、9月には各都道府県反核医師の会からの意見も求めた。
被爆者医療
訴訟支援のためのアピールを準備中である。また、IPPNW北京会議でのワークショップのテーマとして被爆者問題を取上げるよう提案した。
平和テキスト
平和テキストが完成した。世界の唯一の被爆国の医師として、社会的良心を持ちつづける決意を込めて、調査し、討論を重ね学びながら書き上げたられたものである。各執筆者に感謝すると共に、このテキストを活用されるようお願いしたい。
参加会議
IPPNW北アジア大会(10月/京都)に参加。これには近畿IPPNW・反核医師の会連絡会が後援、協力した。内外の参加者との交流を深めた。
声明・抗議など
以下のような抗議や声明の発表をおこなった
★在外被爆者訴訟上告断念を要請(2002/12/13)
★北朝鮮のNPTからの脱退の撤回と国際的合意の遵守を(2003/01/14)
★各県「医師の会」にイラク攻撃阻止緊急の訴え(2003/03/15)
★イラク戦争開始に抗議声明発表 (2003/03/20)
★IPPNWがイラク戦争開始に関する声明発表(英・和) (2003/03/21)
★各県「反核医師の会」がイラク戦争反対声明 (2003/03/28)
★「米国の臨界前核実験に抗議する」声明発表 (2003/09/18)
その都度、ウエブサイトで紹介した。 各地の活動もサイトで紹介したいので是非連絡をして欲しい。
常任世話人会
2ヶ月に一度定期的に開催し、情勢の討論、「集い」の準備などをした。
平山事務局長(非常勤)を迎えた。
担当制を発足させる。
・ニュース発行・ホームページ担当
・被爆者・被爆者医療集団訴訟支援担当
・国際部(IPPNWを中心とした国際活動)
・特別プロジェクト担当
IPPNW北京大会(分科会)
コスタリカ訪問旅行
まだ、十分機能するには至っていないが、今後全国からの積極的な参加を期待する。
全国の活動に関して
復刊したニュースに、適宜各県「反核医師の会」の活動を紹介することにした。
映画「HIBAKUSHA−世界の終りに」を後援した。
各地の活動
映画会開催(和歌山・石川など)や「イラク人医師と語らう会」(愛知)、ピースデポの日本政府の評価成績表への協力(和歌山、大阪など)劣化ウラン弾被害の講演会(北海道)などを始め、各地で様々な活動がおこなわれた。
その他
ウエブサイトの更新を適宜おこなった。サイトをより充実させるために、担当部門に移行することになっているが、まだ準備が整っていない。メーリングリストは現在加盟者26名で最近は新規加入がない。
反省点など
この1年の活動を振り返ってみると、あまりにも急速な核をめぐる情勢の変化に充分対応し切れなかった。また特に北朝鮮関連では情報の真偽を確かめる方法もなく、適切な対応が取り難かった。さらに、同国とは外交関係がないので抗議書の送付先もない。
新たな活動の担い手の発掘が不十分で、今後積極的な協力者を増やしていかなければ今以上の活動は困難な状況である。
各県との連携が不十分で今後改善する必要がある。
紛争がグローバル化し、また北アジアに非核地帯を作ることが重要な課題となっているが、海外、特に北アジアのNGOなどとの交流や情報交換をあまり進めることができなかった。
ウエブサイトやメーリングリストなどのインターネットの活用をもっと図るべきである。財政基盤の弱い「つどい」や各地の「反核医師の会」にとって、インターネットは安価でしかも瞬時に意見交換や情報交換が可能である。また、運動の性質からも機敏な対応が要求されている。今後電子媒体の利用をもっと促進してゆく必要がある。
IPPNWなどの文書で特に重要なものは速やかに翻訳し提供したいが、予算の関係もあり今後検討していくべき課題である。希望者には、原文のままでよければ、重要なものは配信する。
V)今後1年間の目標
機関紙・報告集
復刊した機関紙を継続することが重要である。ニュースをさらに充実させ、3回定期発行する。
※一部約20円かかる。今後各都道府県の医師の会と調整し、
何らかの形で有料化する必要がある。
※希望者には購読会員として「つどい」から直接郵送(会費未定)することも考慮したい。
※機関紙は、皆で作るもの。各「反核医師の会」からも投稿や情報の提供をお願いする。
コスタリカ訪問旅行の報告会開催、報告集を近日中に発行予定
「集い」報告集
常任世話人会の強化
定期的に開催する
申し合わせ事項を正式に決定し、活動を強化する
ブロックなどに配慮しながら全国から広く常任世話人を募り、特に若手の活用を図る
担当チームが充分機能するようにする
事務局体制の強化
事務局の活動拠点の確保をはかる。
被爆者集団訴訟への支援
医療人の支援活動、共同した支援体制が求められている。そのために4つの運動を提起する
@共同の討論会、講演会、平和フォーラムなどを各県で開催
A被爆者から実相・体験の聞き取り
B共同支援団体の組織化(被爆者・弁護士・医師・医学者・平和団体)
C支援医師団の結成
各都道府県の反核医師の会にこの問題に積極的に取り組むよう働きかけると共に、情報を提供する。
IPPNW北京大会(9月16日〜19日)に向けて
被爆者問題に関するワークショップが主催できるよう応募中である。
参加ツアー(9月16日〜20日の予定)の企画と参加者の募集。近くて便利なのでたくさんの参加を期待する。また、IPPNWは途上国からの参加者のための参加者による費用カンパを要請しており、その声に応える。
被爆者問題が積極的に取上げられるよう努力する。
北アジア地域での交流(IPPNW支部やNGO)
北アジアの非核化のために、医師団体も含めこの地域のNGOの交流はますます重要となっている。特に来年は北京でIPPNW世界大会が開催される。様々な機会に交流を計れるよう努める。
NPT再検討会議2005に向けて
2005年は核廃絶へ向かうか?それとも、核拡散に向かうか?の正念場である。何ができるか検討し、行動を提起する。
ホームページ、メーリングリストの充実
各県「反核医師の会」の活動活性化のために
「つどい」と連絡を密にできるよう工夫する。
次回「つどい」に向けて
札幌(10月9日〜10日) 担当:核戦争に反対する北海道医師・歯科医師の会
ノーモア・ヒロシマ・ナガサキ国際市民会議(2005年)
2005年は次回NPT再検討会議の開催年であり、被爆60周年という大きな節目でもある。原水協、原水禁をはじめ全国の全ての核兵器廃絶を求める団体が結集し、世界に大きな声で発信することは極めて重要な意味を持つ。この市民会議が成功するよう、積極的に協力する。
その他
財政基盤の確立のため、方策を検討する
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