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15回「核戦争に反対し、核兵器の廃絶を求める医師・医学者のつどい」

基調報告

 

(1)「守ろう平和憲法、なくそう核兵器――被爆60年、NPT再検討会議を契機に――」をメインテーマのもと、第15回「反核医師の会『つどい』」に参加された皆さんと、私たちのとりまく危機的な情勢認識を共有し、危機を進歩と平和な社会に転換するために、私たち「反核医師・医学者のつどい」のこの1年間の活動について振り返り提起したいと思います。

(2)核兵器・戦争をめぐる国際・国内情勢と新しい未来を切り開く反核・平和の運動

 米英軍がイラクに侵略を始めてから1年半余、今なおイラク中部を中心に大規模な無差別攻撃の限りをつくしています。主権回復はおろか、生活復興を放り出しての米軍の軍事攻撃の激化は、新たなイラク戦争であり、イラク情勢を抜けがたい状況に追い込み、世界の人々に新たな怒りを呼び起こしています。921日国連総会での、“世界の要求で対イラク戦争を始めた”とするブッシュ米大統領演説は、アナン事務総長はじめ、各国首脳に痛烈な非難を受けました。大量破壊兵器は存在しなかったとする最終報告が米調査団から106日に提出されました。「国際紛争を解決する基礎は国連安保理決議を含む法である」とするアナン国連事務総長演説は世界の体制を反映したものであります。米国の国家安全保障戦略、いわゆるブッシュドクトリンにもとづき、米国防省は20021月、米議会に対し「核態勢見直し―Nuclear Posture ReviewNPR)」の秘密報告書を提出したと報じられています。アメリカのある雑誌編集者は「あなたが使うことのできる核兵器、それをつくり、テストして使用する―ブッシュ政権は、その爆弾を本当に愛している」と皮肉られています。劣化ウラン弾などの兵器を平然と使い、核兵器の先制使用も辞さないと再三再四言明している米国は唯一の超大国となり、世界の憲兵になっています。世界の人々は第2の核戦争勃発に危機感を深めており、ブッシュ政権のユニラテラリズムに反対しているのです。

 非同盟諸国、アジェンダ連合諸国のイニシアチブで「核兵器のない世界へ」などの決議が国連総会で採択され、EU(欧州連合)は、テロなどの脅威に対して、先制攻撃を用いた軍事力で対応するブッシュ・ドクトリンを拒否する「人間安全保障ドクトリン」を発表しています。核戦争の脅威の最大の源は米国であることを浮き彫りにした、IPPNW北京大会における幹部発言にみられるように、ブッシュ・ドクトリンを推し進める米国は、孤立を深めているのです。平和を希求する世界の人々に連帯し、「核兵器廃絶」にむけた運動の新たな高揚をつくりだすために、私たちの運動のステップ・アップが求められています。2000年のNPT再検討会議で、核保有国も合意した、核兵器廃絶の「明確な約束」が米国などに反故されようとしている中、来年5月に開かれる再検討会議にむけ、多様な運動をすすめるNGO諸団体、平和市長会議の提言を受け、地方自治体への働きかけを強めましょう。そして、核保有国が核兵器の使用・威嚇・開発をおこなわず、核兵器廃絶の具体的プログラムを策定し、実行に踏み出すことを要求する運動を進めましょう。これは、被爆60年をまえにして「広島・長崎を誰にも体験させたくない」という被爆者の強い願いに通ずるものです。

 国内において、自・公連立政権が5年間続いています。とりわけ小泉政権になってアメリカへの追随ぶりが際立っています。「日米新ガイドライン」に基づく「周辺事態法」を皮切りに「有事法制」の整備を強行し、「テロ特措法」「武力攻撃事態法」「イラク特措法」等など15の軍事関連法を国民の反対にも関わらず成立させ、日米軍事同盟強化と自衛隊の海外派兵への道を急ピッチで進めています。昨年、沖縄で開催された“つどい”で私たちは、日米軍事同盟について学び、その実態を目の当たりにしました。沖縄国際大学に墜落炎上した米軍ヘリコプター事件、沖縄上空でおきた米軍戦闘機の空中接触事件に対する日本政府の対応は、まさに「日本国民の命より、米軍の軍事機密を優先する」対米追随の実態を国民の前に改めて明らかにしました。今、沖縄では、「普天間基地の閉鎖、無条件返還を。名護市への新基地建設を許すな」の運動が大きく広がっています。私たちは、この要求を支持し、連帯するものです。この様な状況下で、小泉首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」は、10月4日、今後の日本の安全保障政策に関する報告書を提出しています。それによりますと新たな安全保障戦略の目標として「日米防衛」に加え、地域が不安定化してテロなどの脅威が日本に及ばないようにするために「国際的安全保障環境の改善」を設定し、それに取り組む最大の柱として日米同盟を位置付けています。さらに武器輸出3原則を見直し、少なくとも米国に対しては規制を緩和するように提言しています。あらゆる分野で米国の代弁者として振る舞う小泉政権は、この国を、アジアを、世界を危険な方向に向かわせているのです。小泉政権にとって、米国にとって最後のそして最強の邪魔な砦である憲法9条の改悪を政治日程にのせています。自民党単独政権でさえなしえなかった、9条を中心に「日本国憲法」を「改正」しようとする動きの規模と強さは絶対に軽視できません!これに抗し、大江健三郎氏、加藤周一氏など、日本の良識を代表する9人の有識者は、6月10日「九条の会」を発足させました。「九条の会」アピールは、“日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、「改憲」のくわだてを阻むため、一人ひとりが出来る、あらゆる努力を、今すぐ始めることを訴えます”と結んでいます。私たちは、この訴えに賛同・共鳴し、憲法改悪反対運動への大きな連帯の意思表示を行なうものです。IPPNW北京大会で、松井代表世話人のスピーチを受け、「日本には憲法9条を輸出してもらいたいものだ」と発言したオーストラリアの医師の発言の中に、憲法9条をもつ日本の役割と大きな期待が込められています。来夏ニューヨークで、武力紛争予防のための市民社会の役割を議論する大規模な国際NGO会議が開かれます。国内事務局には、国連側からピースボードが選ばれています。その準備過程で「東北アジアの紛争抑止装置としての憲法9条の役割」を強調していくことが確認されています。私たちはNGO会議の成功に向け貢献できるように奮闘していきたいと考えています。

(3)原爆症認定集団訴訟の取り組みについて

 松谷訴訟をはじめ、私たちは各地で起こされた原爆症認定訴訟の勝利に向け活動を行なってきました。被爆して59年目の今日まで、この世の地獄を体験した被爆者たちは、この悲劇をくり返してはならないと世界に被爆の実相を訴え、核兵器廃絶の国際世論の形成と核戦争阻止に大きな力を発揮してきました。国は長きにわたって被爆者の原爆症認定申請を却下してきました。平均年齢が70歳を越え、悪性腫瘍などにおかされ、いつ倒れてもおかしくない被爆者たちは、核戦争の悲惨さを改めて告発し、原爆被害を過小に評価する国に対して、全国で「原爆症認定集団訴訟」に立ちあがっています。高齢化した被爆者は余命をかけて、日本政府と核兵器を持ち続ける国を相手にした、勇気を振り絞った「最後の闘い」と位置付けています。それだけに被爆者だけの闘いにしないで、広範な人々の力を必要とします。私たち医師も、積極的にこの運動に参加し、社会的良心を持つ知識人として、なお一層の力を発揮していきましょう。

 この1年、2ヶ月に1回開催された常任世話人会議前に、「“つどい”ニュース発行」「IPPNW世界大会準備」と「被爆者認定集団訴訟課題」の小委員会を組織し、学習と議論を積み重ねてきました。原爆症認定集団訴訟の課題は、全国の医師たちの知識を必要としています。被爆者と連帯を深める運動としても位置付け、活動を強化していきましょう!

(4)「核戦争に反対し、核兵器廃絶を求める医師・医学者のつどい」の組織化に向けて。

 昨年提起された“申し合わせ事項”の最終合意を今回の“つどい”にて確認して進めていきますが、なによりも各県での会員拡大が必要です。昨年の沖縄県に続き、今年4月、茨城県で“反核医師の会”が結成されました。現在、埼玉、群馬で再建の動きが開始されています。引き続き未結成の県への結成準備支援をおこなっていきます。

 第16回“つどい”は、名古屋での開催予定です。成功に向け、すでに準備が開始されています。2005年10月にIPPNW北アジア大会が広島で開催されます。次回のIPPNW世界大会は、2006年ヘルシンキで9月に開催予定で、テーマは、「医師の責務−戦争か健康か」です。今から準備に取り組んでください。

 平和テキスト「核のない世界へ」の普及は、全国の皆様のおかげで2000部まであと百数十冊を残すのみになりました。IPPNW北京大会の報告集、北海道の“つどい”報告集も作成いたしますので、その普及にも努力していきます。

 財政問題は長年にわたる重要な課題ですが、未解決です。組織の存亡を左右する課題でもあり、一歩一歩解決に向け歩んでいきますが、当面の具体的課題遂行のためには、皆さんの、より旺盛な協力を必要とします。

 国内外で顕著になっている戦争、核兵器容認・使用の危機を防ぐためにも、被爆国日本の医師の責務は大なるものと思います。世界に誇るべき平和憲法を守る活動とリンクさせながら被爆者の運動に連帯し、核兵器廃絶を求めて活動する諸組織と連帯し、共同行動を強化していきましょう。

 

「核戦争に反対し、核兵器廃絶を求める医師・医学者のつどい」常任世話人会

       2004・10・9 札幌