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第18回 核戦争に反対し、核兵器廃絶を求める医師・医学者のつどい in 京都

基調報告

核戦争に反対する医師の会

常任世話人 原 和人

はじめに

 1987年7月に「第1回核戦争に反対し、核兵器廃絶を求める医師・医学者のつどい」が東京で開催されて以来、今年で20周年を迎えました。今年は、この記念すべき「第18回つどい」集会を、「LOVE平和憲法、NO核兵器、20周年に向けて新たな決意IN京都」をメインテーマに、京都で開催します。

2005年は、アメリカの妨害によってNPT再検討会議がなんらの成果もなく終わり、核兵器の廃絶を望む世界の多くの人びとに大きな失望を与えました。昨年の横須賀での「つどい」は、10月9日に北朝鮮が地下核実験を実施したと発表した直後に開催されました。核の「終末時計」が2分すすめられて「5分前」になったことに象徴されるように、この数年、核兵器廃絶に向けての情勢は厳しい状況に直面しました。しかし、今年に入って6カ国協議の合意に基づき北朝鮮が核施設の稼動停止に向けて行動を開始したこと、また、2010年のNPT再検討会議に向けての新アジェンダ連合をはじめとする各国の力強い動きなど、核兵器廃絶に向けた新たな歩みが始まっています。さらに、核兵器廃絶を求める被爆者の叫びは、いま圧倒的多数の政府をふくむ世界の声となっています。

世界で唯一、核戦争の惨禍を体験し、戦争放棄の憲法を持つ日本政府は、国際政治の場で核兵器廃絶のイニシアチブを発揮し、「非核三原則」を厳格に実行することが強く期待されています。これに反し、「核の傘」への依存や核保有議論、原爆投下の容認や過去の侵略戦争の正当化、在日米軍基地の再編・強化、さらには憲法改定などの動きがおきているもとで、7月の参議院選挙では、安倍自公政権に厳しい審判が下り、“アメリカとともに戦争する国づくり”をめざす9条改憲のくわだてに、大きな打撃をあたえました。さらに、憲法九条をまもり、非核・平和の日本をめざす国民の力強い運動が前進しています。

こうした状況のもとで、「第18回つどい」が開催されています。

1.核兵器と平和をめぐる情勢

(1)アメリカの危険な核戦略

 ブッシュ政権は、国内外で矛盾と孤立ぶりを顕在化させながらも、依然として核戦力を世界戦略の中心にすえる政策にしがみつき、核戦力の新たな強化に乗り出しています。ブッシュ政権は、現存の核兵器全体を新型の核兵器にそっくり取り替える「信頼できる代替核弾頭計画(RRW)」を発表し、08年度に関連予算を要求しています。

 米国の核使用政策は、2005年4月に明るみにでた米統合参謀本部の「統合核作戦ドクトリン」に明示された核兵器先制使用政策と「グローバル・ストライク(全地球的攻撃)」にもとづき、核兵器を中軸にしつつ通常兵器との渾然一体的な使用に特徴づけられます。

(2)危険なミサイル防衛計画

 アメリカは、イランの弾道ミサイルの脅威に対抗するとして、チェコにレーダー基地を配置し、ポーランドに迎撃ミサイルを配置する計画をすすめています。この計画に対して、チェコやポーランドの国民は猛反対し、ロシアも「米国の核戦力が欧州全域に拡大するなら、われわれとしては欧州で新しい標的を設けることになる」と述べ、新たな軍拡と対立が生まれる危険性があります。同時に、太平洋地域では、北朝鮮の脅威に対抗するとして、日本をミサイル防衛の拠点にしようとする動きを強めています。

(3)新たな段階に入った6カ国協議

 北朝鮮は、7月18日寧辺(ヨンビョン)の核施設の稼動停止を発表しました。私たちは、6カ国協議による朝鮮半島非核化の動きを歓迎します。6カ国協議の2月の合意は、初期段階として、「北朝鮮はすべての核計画について5カ国と協議」し、次の段階は、「すべての核計画についての完全な申告の提出」と「すべての既存の核施設の無能力化」です。私たちは、力や武力によるおどしではなく、平和的な話し合いによって、すみやかに次の段階に移行することを期待します。

(4)2010年のNPT再検討会議に向けて

 今年の春に開催された2010年のNPT再検討会議第1回準備員会は、非同盟諸国、新アジェンダ連合、さらには軍事同盟諸国の政府さえ、核をめぐる今日の主要な問題が、既存の核保有国、とりわけ世界の大多数の核を独占する核超大国の姿勢であることを明確に指摘し、これまでのNPT再検討会議の合意の実行を求めました。2000年に合意した核兵器廃絶に向けての「明確な約束」を再確認し、その実行を加速させる会議になるように期待するとともに、そのためには私たちの運動も大切です。

(5)久間元防衛相の原爆投下容認発言は許されない

久間元防衛相は6月30日、千葉県の麗澤大学でおこなった講演で、「我が国の防衛について」と題して行った講演で、「米国はソ連が日本を占領しないよう原爆を落とした。無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったという頭の整理で、今しょうがないなと思っている」とのべ、太平洋戦争終結時に米国が広島・長崎に原爆を投下したことについて容認する発言をおこない、その後辞任しました。私たちは、この発言に対してただちに抗議しましたが、安倍首相も当初は、「わが国は被爆国として核廃絶をめざしているが、久間発言については問題視しない」と発言しました。被爆国日本の首相として許される発言ではありません。

また、今年4月に核兵器の廃絶に向けて大きな役割を果たしてきた伊藤一長長崎市長が、暴漢の凶弾に倒れました。私たちは、このような暴力に対して大きな怒りを感じるとともに、伊藤前市長の核兵器の廃絶にかかげた意思を引き継ぐ決意です。

2.核兵器の廃絶に向けて

 核保有国が、自国の世界戦略の中で核兵器をその中心にすえる状況の下で、核廃絶に向けての展望は決して容易なものではありません。しかし、かつて地雷の禁止条約を締結させたように、核兵器廃絶を願う市民社会と国際社会の両方で、核兵器をなくせという圧倒的な世論をつくりあげれば、核兵器の廃絶は不可能ではありません。

(1)NPT再検討会議の成功

 先に述べたように、2010年のNPT再検討会議の成功が重要です。そのためには、各国の反核平和運動が自国の政府に対して、国連の場で、核兵器全面禁止を緊急かつ死活の課題として認識し、そのために運動するように働きかけることが大切です。その中で、唯一の被爆国である日本の政府が、米国をはじめとする核保有国に対して、核廃絶を迫るという明確な立場をとるように、運動を強めなければなりません。

(2)北東アジアの非核地帯の実現を

  6月に開催されたIPPNW北アジア地域会議では、北東アジアの非核地帯の創設が論議されました。現在、トラテロルコ条約(ラテンアメリカ)、ラロトンガ条約(南太平洋)、ペリンダバ条約(アフリカ)、バンコク条約(東南アジア)、セミパラチンスク条約(中央アジア)の非核地帯条約があり、核兵器の実験・使用・製造・生産・取得することなどを禁じています。また、モンゴルは、その領土を非核地帯と宣言しました。現在、世界の109か国が何らかの非核兵器地帯条約の加盟国となっており、この非核地帯が全世界をカバーすれば、実質的に核兵器の保有や使用は不可能になります。

 日本においても「非核三原則」を法制化することは、日本の非核地帯の宣言になります。このことは、朝鮮半島の非核化の動きとモンゴルの一国非核地帯宣言とあわせて、北東アジアの非核地帯条約の実現にむけて大きな役割を果たすことでしょう。

(3)ICANなどの草の根の運動を

 IPPNWは、核兵器の廃絶に向けて、ICAN運動を提起しています。私たちも、このICAN運動を全面的に支持して、その運動をすすめます。核兵器の廃絶には、このような草の根的な運動が重要です。

 私たちも、唯一の被爆国の医療の専門家として、被爆の実相を伝えたり、被爆者の支援や、核兵器の廃絶をめざすさまざまな創造的な取組を行うことが大切です。

3.原爆症認定集団訴訟、被爆者医療の取り組み

 昨年5月の大阪、8月の広島の勝訴に引き続き、原爆症認定集団訴訟は、1月31日の名古屋、3月20日の仙台、3月22日の東京、7月30日の熊本と、連続して6回の勝訴判決を勝ち取ることができました。

 7月30日の熊本地裁判決は、原爆症で認定を求めて提訴した21名の原告のうち、19名について国の認定棄却の決定を取り消しました。この熊本地裁判決は、これまでの5つの判決と同様に、DS86による被曝線量評価とそれに基づく原因確立の機械的適用を戒め、被爆状況、被爆直後に生じた症状の有無、程度、被爆前後の健康状態、申請疾病以外の疾病の有無、内容などを全体的、総合的に考慮した上で判断すべきとしており、認定のあり方は定着したといえます。特に、今回の判決が、放射性降下物の降下範囲を広く設定し、審査の方針に掲げられた地域以外での滞在でも相応の放射性降下物による外部被曝を受けた可能性を考慮する必要があるとしたこと、内部被曝についても、残留放射線の影響をより明確に認定した画期的な判決といえます。

 これらの判決に対して、安倍首相は5日広島で被爆者の代表に対して、認定基準の見直しを指示すると述べ、柳沢厚生労働大臣も6日、現審査会委員以外の専門家、法律家による検討会を組織し、被爆者の意見も聞いて、1年以内に結論をだしたいと述べました。しかし、国は熊本地裁の判決を不服として福岡高裁に控訴しました。その後、被爆者や国民の抗議の声に押されて、自民党は認定基準の見直しや裁判の控訴取り下げなどを検討していると報じられています。

今年の原水爆禁止世界大会で、被爆者は、「国は自分たちがいなくなることで、原爆症の解決をはかろうとしている」、「私たちの願いは、裁判に勝利することだけではなく、核兵器を廃絶し、二度と自分たちと同じ苦しみを経験することながい世界を望む」と訴えられました。

国はこの間6回もの地裁判決を認め、ただちに控訴を取り止め、被爆者の救済を行うとともに、核兵器の廃絶に向けて、明確な立場を表明すべきです。

7月16日に発生した新潟中越沖地震で、東京電力柏崎刈羽原子力発電所では、放射能漏れを含めた大きな被害が発生しました。地震が多い日本の原発の安全性が揺らいでいます。「想定外のゆれ」ではすまされない問題です。私たちは、日本のすべての原子力発電所の周辺の断層調査を早急に行うこと、安全性に問題がある場合にはただちに閉鎖を含めた対応を行うこと、情報のすみやかな公開に努めること、放射能漏れ事故に対応するヨウ素剤の配布を行うことを要求します。

4.「反核医師の会」の活動

(1)「反核医師の会」の現状

「反核医師の会」の第17回総会は、千葉、茨城、群馬、埼玉、東京、神奈川、山梨などの反核医師の会などでつくる実行委員会が主催し、昨年10月21日、22日の両日、神奈川県横須賀市で開催され、医師・医学生ら163人が参加しました。

 今18回総会も、近畿の各県の反核医師の会が中心となり実行委員会を結成して、京都で開催されます。今回の「つどい」準備の段階で、新たに奈良県に反核医師の会が結成されました。心から歓迎と連帯の拍手をおくりたいと思います。これで現在、各都道府県で活動している「反核医師の会」は29都道府県となりました。さらに、岩手県では8年ぶりに再開総会が開催されるなど、各県の反核医師の会の活動も活発になっています。来年の総会は、石川で開催される予定ですが、福井、富山の3県で実行委員会を組織し、北陸の各県での活動強化が期待されます。

全国の「反核医師の会」の会員数は、団体会員31、個人会員271と少しずつではありますが前進してきてきました(9月7日現在)。

 今後の「反核医師の会」の運動の発展においては、各都道府県段階での「反核医師の会」の活動の活発化と、若手医師や医学生の新たな参加が必要です。反核平和に関心のある若手医師に思い切って、「反核医師の会」への参加を訴えましょう。また、IPPNWの活動では、医学生が積極的に参加してきています。医学生への財政的援助なども含めて、積極的な参加を重視しましょう。

 「反核医師の会」は、原爆症認定集団訴訟に関して、名古屋、仙台、東京、熊本地裁判決に対して声明を発表し、また、熊本地裁の判決に対する国の控訴に対して抗議文を発表しました。その他、伊藤一長市長の訃報にたいしての声明、九間防衛相の原爆容認発言に対して抗議声明を発表しました。

 「会」の運営は、2ヶ月に1回、常任世話人会が開催され、参加人数も多くなり、その論議も活発化しています。常任世話人会では、国際部、被爆者医療、広報部の専門部を設けて活動しています。

 「反核医師の会」は、20周年を記念して、記録CDを作成しました。また、20周年記念事業として、IPPNWの共同議長であったアシュフォードさんの「Enough Blood Shed」の本を翻訳して出版します。普及、活用に努めましょう。

(2)各専門部の活動と今後の主な活動方向

@国際部

 今年の6月21日・22日にモンゴルのウランバートルで開催された第6回IPPNW北アジア地域会議に2名参加しました。この地域会議では、朝鮮半島の非核化、北東アジアの非核地帯の創設などについて、活発に論議されました。2008年3月9日から11日にインドでIPPNWの総会が開催されます。多くの会員の参加をめざしましょう。

A被爆者医療

 各地の活動交流や情報収集などを中心におこなってきました。原爆症認定集団訴訟の勝訴に、医学的な専門集団として大きな役割を発揮してきました。今後とも支援を強めましょう。この集団訴訟支援で、大きな力を発揮した兵庫の郷地秀夫医師が「『原爆症』罪なき人の灯を継いで」を出版しました。おおいに普及しましょう。

 海外被爆者を援助する活動、劣化ウラン弾の製造、禁止の運動も引き続き、強めていきましょう。

B広報部

 この1年、「反核医師の会ニュース」は、11月、3月、7月に発行しました。核兵器をめぐる情勢や反核医師の会の活動など、その紙面も充実してきています。現在読者数は、約3,240部になっています。「2006年度活動報告集」も発行しました。ホームページやメーリングリストなども充実してきました。

 反核医師の会としての情報発信や会員の活動交流に役立つよう、さらに内容の充実をはかります。

 私たちは「申し合わせ事項」にもとづき、実践をはじめて3年が経過しました。その間の情勢の変化は、私たちの「会」の活動強化と運動の前進を求めています。核兵器のない、平和な世界と日本をつくるために、世界で唯一の被爆国の医師としての知識と役割を発揮しましょう。