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基調報告

「核兵器廃絶への流れをもっと早く、もっと大きく!」

「核戦争に反対する医師の会(PANW)」―共同代表世話人 児嶋 徹

 核はもうSAIGODONな兵器もいりもはん!!のメインテーマのもと、記念すべき第20回“反核医師のつどい”を開催された“つどい鹿児島実行委員会”のみなさん、ご後援して頂いた鹿児島県保険医協会、民主医療機関連合会、鹿児島市医師会はじめ諸団体、諸組織の皆様に心より感謝申し上げます。

64年前に米国によって広島・長崎に投下された原子爆弾は、最も残虐な兵器として人類を脅かす存在となり、その数は地球上に26千発位あるといわれています。「核戦争に反対する医師の会(PANW)」に参加する私たちは、JPPNWに参加する医師・医学者とともに核戦争を防止し、核兵器廃絶の運動を結成以来22年間粘り強く続けてきました。この1年弱の間核を巡る情勢は、核兵器のない世界に向けて国際的規模で大きく変化しています。今私たちは核兵器廃絶を緊急の課題として前進させるのか、究極の課題として後方に退けるのかの大きな岐路にたっています。唯一の被爆国の医師としての社会的良心と社会的責務をより一層発揮し、核兵器廃絶の流れをもっと早く、もっと大きく出来るチャンスを逃さず、運動を高揚させていく必要があります!私たち人類は全ての対立や意見の相違をなくす事は出来ないにしても、共通の利益のために協同して行動する事は必ず出来ると確信しています。私たち医師が核戦争を防止し、核兵器廃絶に力を発揮し、協力することは、生命や健康を守るために日々必要な力を出し、協力している事と同じだからと思うからです。この“つどい”を、新しい未来を切り開く反核・平和を飛躍的に高めていくために位置づけ、大きく成功させていきましょう!

T.核廃絶に大きく動き出した国内・国際情勢 

(1)核兵器廃絶への大きな流れを生み出したもの

1955年、広島で初の原水爆禁止世界大会が開かれて45年、被爆者たちは、「報復」を否定し「もう2度とあやまちはくりかえしません」と立ち上がり、翌年に「日本原水爆被害者団体協議会」を結成しました。被爆の実相を休むことなく国内外に訴え続けてきました。そして2001年「21世紀被爆者宣言」を発表し、「憲法が生きる日本、核兵器も戦争もない21世紀をー私たちは、生あるうちにその“平和のとびら”を開きたいと願っています。日本政府が戦争責任を認めて原爆被害者への国家補償を行い、非核の国、不戦の国として輝くこと。米国が原爆投下を謝罪し、核兵器廃絶への道に進むことーそのとびらを開くまで、私たち被爆者は、生き、語り、訴え、たたかい続けます」と記されています。

非同盟諸国が主導し、国連史上初めて、核兵器廃絶をはじめ軍縮に議題を絞って開催された「第1回国連軍縮特別総会―SSDI」から31年が経っていますが、この間も非同盟諸国、新アジェンダ連合は、NPT再検討会議の合意である「核兵器の全面廃棄を達成するとの明確な約束」の履行を加速するよう促す「核兵器のない世界に向けて」等々、核軍備撤廃を国連で訴え続けています。とりわけ第62回国連総会では、核兵器関連の20の決議全てが圧倒的多数の賛成で採択されています。対照的に米国は、全ての決議に反対しています。

国際的にも孤立状態となるに至っていました。2006年、IPPNWは、ICAN運動を提唱し、核廃絶を願う諸組織、世界の市民に訴えともに行動することを呼びかけました。秋葉広島市長のイ二シアチブで発足した世界平和市長会議は、2020年に核兵器廃絶を提起、賛同自治体は世界中で増え続けています。20071月、ウォール・ストリート・ジャーナルにキッシンジャー氏はじめ、米元政府高官4氏が「米国の指導者たちに求められるのはー核兵器に対する世界的な依存を逆転させ、最終的には核兵器が世界への脅威であることを終わらせるための確固としたコンセンサスに進むことだ」「我々は、核兵器のない世界という目標を達成するのに必要な行動に積極的に取り組むことを支持する」という内容の論文を発表、世界に大きな反響を起こしました。「全人類共通の緊急課題として核戦争防止、核兵器廃絶の実現」を訴え行動してきた、唯一の被爆国の原水爆禁止運動、半世紀余にわたって、被爆の実相を世界に訴え続けてきた被爆者の運動が礎となって世界に影響力を広げてきたのです。同時に、イラク戦争の失敗などにみられる「力の政策」の破綻、核兵器使用を含む「グローバル・ストライク(全地球的打撃)」戦略など、ユニラテラリズムの戦略をとり続けてきた前ブッシュ政権は米国内外での矛盾と孤立を深め崩壊、オバマ大統領を誕生させるに至ったのです。長崎原爆病院院長に就任された朝長万左男先生は「この新しい動きの中で、来年のNPT再検討会議に向けて、被爆国日本が核兵器廃絶の役割を担えるか、今年は非常に楽しみな年だと思います」と核兵器廃絶に向け飛躍する年となるよう希望を述べています。

2)米オバマ政権の誕生と核を巡る情勢 

 オバマ米大統領は、200945日チェコの首都プラハでの演説で「核のない世界の実現」に向けた新政策を打ち出しました。「核兵器を使用した唯一の核保有国として米国は行動すべき道義的責任をもつ」「冷戦的思考に終止符を打つために米国は安全保障戦略上の核の役割を低減させる」「追求しなければ平和は永遠に我々の手に入らない」「核のない世界に向けて具体的な方策をとる」と述べ、さらに「米ロ核軍縮で第1次戦略核兵器削減条約(START1)の後継条約の交渉を始め、今年末までに大胆で法的拘束力がある新たな合意を目指す」「包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准をただちに強力に推進する」「核不拡散条約(NPT)を強化し協力の基盤とする」「テロリストに狙われるあらゆる核物質の防護体制を4年以内に整える」「兵器級核物質の生産を停止する新条約(カットオフ条約)交渉の妥結を目指す」等々、具体的な方向性も示しました。

ブッシュ政権下とは全く違うこの演説に世界中の多くの人々が驚愕し、喝采を浴びせました。オバマ氏の学識を精査したニューヨーク・タイムズ紙の軍事記者が「大統領のビジョンは深い根を持っている」と論評しています。オバマ氏はコロンビア大学4年生の時、「戦争メンタリテイーを打破せよ」という論文を校内誌に寄稿、「核攻撃から生き残る核能力を持つことが相手に攻撃を思いとどませる。このゆがんだロジックこそ巨大な軍事企業に奉仕する理論だ」とし、核軍拡を正当化する抑止論を痛烈に批判していることをあげています。

核兵器廃絶を目指し運動してきた諸国民の力、911テロとその後の対応、イラク戦争の失敗等々からの教訓、米国国内情勢、大統領自身の思考等から、もはや核抑止力政策は破綻・無力化しつつあると判断されたのでしょう。オバマ演説を受けて、米国防省は核戦略の基本をすえる「核態勢の見直し(NPR)」報告と、4年ごとの「国防計画の見直し(QDR)」報告の更新に着手すると発表しています。同省長官は「核兵器の拡散防止を最優先課題とする」「ロシア側とさらなる核兵器削減交渉を進める」と言明する一方「敵対国が核兵器を持つ限り堅固で信頼出来る核抑止を維持する」とも述べています。

核抑止論者の力も強く、米国全体が一路、核廃絶に進んでいるわけではありませんが、核廃絶に向かう世界の流れは広く、大きくなっていることは確かです。イギリスでは、閣僚経験者や元軍高官による新しい超党派グループが「核兵器のない世界」を目指し活動をスタートさせ、英国外相は、核保有国として初めて「核兵器廃絶」への方向性を示す提言「核の影を取り去るー核兵器廃絶への条件づくり」と題する政策文書を発表しています。ドイツでは、ワイツゼッカー元大統領ら著名な政治家4人が、キッシンジャー氏らの呼びかけに賛同し、「核兵器のない世界に向けてードイツの見解」という論文を発表、ドイツ自由民主党(FDP)党首は、ドイツが核軍縮に大きく貢献するために「ドイツ領内にある米国の核兵器を4年以内に撤去すべき」と強調しています。ベルギー議会も国内に存在する米軍の核兵器(弾頭数10〜20)を撤去するよう、米国に書簡を送付しています。中央アジア5カ国は、非核地帯条約発効で「我々は核兵器のない未来を選択した」と言明しています。この条約の発効で条約参加国は100カ国を超えたことになります。アラブ連盟首脳会議の最終宣言には、「非大量破壊兵器地帯創設」が盛り込まれています。ロシアのメドベージェフ大統領は、ヘルシンキ大学での講演で、核軍縮問題に「大きな期待」があると述べ、核軍縮に向け「条件」として@核兵器の宇宙空間への配備の禁止A核兵器の削減分を通常兵器で穴埋めしないB削減した核兵器は貯蔵するのではなく確実に破壊することなどをあげています。同時に米国が配備を計画しているポーランド・チェコへのMDシステムは核軍縮を困難なものにする。と懸念を表明しました。これを受けてオバマ大統領は東欧へのMDシステム配備を中止する言明をしましたが、両国に迎撃ミサイルSM3を配備する新MD計画を発表しています。前述した出来事はオバマ大統領のプラハ演説以後数ヶ月間に起こったことです。IPPNW米ロ支部は、両国大統領に書簡を送り核兵器廃絶のための核兵器禁止条約に向けて、他の保有国と直ちに交渉を開始することを求め、核不拡散条約(NPT)第6条に対する責任を果たすよう求めました。書簡の最後は「歴史上の偉大な善行を行う機会に恵まれる人はそんなにいません。貴殿には世界を救う機会が与えられているのです。どうか私たちを失望させないで下さい」と記されています。私たちはオバマ大統領の「核のない世界」に向けた発言を支持するものです。この発言の実践を強く要望するとともに、私たちの運動を一層強化することが「核兵器廃絶」の実現に向け重要なことであると認識しています。

3)国連の役割に新たな希望の光

20097月に開催された主要8カ国首脳会議(G8サミット)が、「核兵器のない世界のための条件づくりを約束する」と宣言して2ヵ月後の923日から29日までの6日間、各国首脳が演説する国連総会一般討論が行われました。

米国の単独行動主義に批判が集中したブッシュ政権時代とは一変し、オバマ米大統領が国連への新たな関与を打ち出すなど、新しい国際協調の気運が高まりました。インド外相、ブラジルのルーラ大統領、エジプト外相、カザフスタン外相等々「相互尊重・協力の中心舞台は国連である」ことを強調しました。オバマ大統領は21世紀のあるべき世界秩序として「どの国も他国を支配できないし、そうしようとすべきでもない」と述べ、国連に関与し、世界秩序に向け「古い分断に橋を架ける新しい連合」を築き、「世界全体の協調した努力の場」としていく意思表示をしています。

9月に新政権を発足させた鳩山首相は「唯一の被爆国として果たすべき道義的責任」として、「核軍拡の連鎖を断ち切る道を選んだ」と表明し、非核三原則の堅持を宣言し、「核兵器廃絶の先頭に立つ」を表明、近隣諸国の日本の核武装を疑う声に対し「我々の強い意志を知らないが故の話だ」と否定しています。私たちは、鳩山首相の国連でのスピーチ内容の実践を強く希望するものです。924日、国連安全保障会議(15理事国)はオバマ大統領が議長となり開催されました。

核軍縮・不拡散をテーマにした初の首脳級特別会合です。「核兵器のない世界」を目指した条件作りに安保理として取り組む決意を前文に明記した、米国提案の決議が核保有国5カ国を含む全会一致で採択されたのです。決議は、NPTを核不拡散の「礎石」とし、非加盟国に対し加盟を促進させ、締結国に対し6条に基づいて「核軍縮の縮小に関する効果的措置について、および厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条件について、誠実に交渉を呼びかける」と明記されています。そしてCTBTの早期発効を目指し、世界各地の非核兵器地帯条約・構想について歓迎・支持も表明しています。核兵器廃絶を正面に掲げた国際条約の交渉とは異なりますが、NPT6条に基づき、核削減を含む軍縮条約の交渉を促進するとの決議が安保理で採択されたのは初めてのことです。CTBTの促進会議も並行して開催されました。未批准の米国は、1999年の初会合以来10年ぶりの参加となります。条約発効には44カ国の批准が条件となっていますが、米国、中国など9カ国が未批准、インド、パキスタン、北朝鮮は署名にもいたっていません。この会合で、クリントン国務長官は「CTBTは我が国の核不拡散と核軍縮の不可欠な部分」「今後数ヶ月間、米上院に批准への同意を求めるとともに、条約発効に向けて未批准の他の国々にも働きかける」と言明しています。一方、CTBTの批准に必要な上院の3分の2以上の同意を得られる見通しはたっていません。米国民への国際的規模での応援が必要となります。

多くの人々が、核兵器廃絶への力強い一歩一歩の前進を実感しています。核兵器を「各国の軍備から除去する」ようにうたわれたのは1946年の国連総会第1号決議でした。それから63年たった今年、国連の役割に新たな希望の光が見えてきました。この光をもっと輝かせるために、私たちは方向を間違えぬようにしながら、核廃絶にもっと早く歩みを進めていかなければなりません。

4)原水爆禁止運動の理論的・実践的到達点に学び、唯一の被爆国民として反核・平和の運動をさらに飛躍させよう!

55回目となる原水爆禁止世界大会が「核兵器のない平和で公正な世界を」メインテーマに広島・長崎で開かれました。大会の成功に向けて国民平和大行進が、全都道府県と7割を超える自治体を通過し、10万人の参加で国民的行動として行われています。

フランス平和運動の代表から提案された「核兵器なくそう・世界青年のつどい」の開催は5回目を数え、年々参加者が増えています。

この大会で、核兵器のない世界をつくるために国際政治の最前線で活動する政府の代表、被爆者代表、世界と日本の草の根の代表が報告し、国際会議宣言が採択されています。宣言では、2010年、ニューヨークで開催されるNPT再検討会議を歴史的転換点にしなければならないとし、反核平和運動の国際ネットワーク「廃絶2000」、全米平和正義連合とともに、ニューヨークでの大行動と核兵器廃絶を求める署名の共同提出を行い、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)や世界平和市長会議の「2020ビジョン」、核廃絶の火キャンペーン、科学者による廃絶キャンペーンなど核兵器廃絶につながる世界の全ての運動と連帯するとしています。

核廃絶・平和の波がより大きく、高くなった大会になりました。この大会に少なくないPANWの会員がさまざまな形で参加しています。日本では、8月末の総選挙で、核兵器廃絶に実効性のない国連・日本提案をし、国連での核軍縮関連決議の採択では、米国追従の判断を下してきた自・公政権が大敗北し、民主党を中心とする新政権が誕生しました。鳩山首相が国連総会で発言されたように「非核三原則の堅持・核武装の否定」「核兵器廃絶の先頭に立つ」の決意の実践を、私たちは強く要望するものです。

@政治の道義を確立するために、日米核密約を国民の前に明らかにして、「核の傘」からの離脱を強く要望します。

米国政府が解禁した外交文書から、日米間に4つの密約が明らかになり、国家行政組織法に基づき、岡田外務大臣は密約調査委員会を発足させています。この問題は、我が国の政治問題として極めて重要な事です。核兵器を積んだ米軍航空機・艦船の飛来・立ち入りを認めた日米核密約(1960年)の存在が、歴代外務事務次官の相次ぐ証言で明らかになっています。米政府が密約文書を公開したあとも「そんな文書は存在しない」と、自・公政権は強弁し続けてきました。国民を欺き、最低限のモラルを失った政治が信頼を得られないのは当然のことでしょう。私たちは、「核密約」を現政権の約束どおり公開・廃棄し、非核三原則に実効性を持たせるためにも法制化を要望するものです。そして今、非核三原則を法制化させようという「非核3原則の法制化」の署名運動と自治体の意見書を求める運動が、日本被団協の呼びかけで始まっています。私たちは、この呼びかけに応え運動を進めます。

日本が「核の傘」に依存する限り、いつ何時、核兵器が日本に持ち込まれるかわかりません!日本が「核兵器廃絶」に向けてのイ二シアチブを発揮し、率先して、米国の核の傘からの離脱をして、米国の「核の傘」にある諸国に離脱を訴えていくべきだと思います。このような政策は、「核兵器のない世界」に踏み出そうとしているオバマ政権に強力な支援となるでしょう。

A米軍基地問題についてー「思いやり予算」の全廃を!

日本には、今87の米軍基地(専用施設)があります。その75%が沖縄に集中しているのです。陸・海・空・海兵隊の4軍の部隊と司令部がそろっているのは世界中で日本以外になく、約5万人の米軍が駐留しています。西太平洋での米軍の最大の出撃拠点となっており、米軍の地球規模の戦争を支えています。幾度となく「綱紀粛正」をとなえても米兵による犯罪はあとをたちません。旧安保条約発効の1952年から今日迄、米軍人による犯罪で約1100人の日本人が死亡しています。海兵隊の撤退、基地の削減・撤去に踏み出さない限り犯罪は繰り返されるでしょう。これまでの自・公政権は、在日米軍再編の目玉として米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)の“代替”と称して、名護市辺野古崎沿岸部に新基地を建設する計画に固執してきました。この計画は、1995年の米兵による少女暴行事件で高まった「基地撤去」の沖縄県民の怒りをそらすための、SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意による(1996年)[基地の県内たらい回し]路線に基づくものでした。昨年の県議選で基地県内移設反対派が過半数を占め、5月に実施された、「沖縄タイムス」と「朝日」の世論調査でも、県内移設に「反対」が68%を占め、「賛成」の18%を大きく上回っていました。8月の総選挙では、在日米軍再編の推進勢力だった、自民・公明の衆議院議員がゼロとなりました。在日米軍再編見直しを公約にした民主党を中心とする政権の誕生という激動が生まれました。新政権が見直しを表明し、米側も協議に応じる姿勢を示している今、国民のたたかい次第で新たな局面が生まれる可能性が開けています。基地「県外移設」を巡って、この1ヶ月弱、米政府の鳩山政権への「脅し」とも言える圧力が強まっています。118日沖縄では、「辺野古への新基地建設と県内移設に反対する県民大会」が開かれています。辺野古では、米軍新基地建設に反対して抗議と監視を続ける、ヘリ基地建設反対協議会の現地座り込みが、1121日で2042日を迎えています。日米合意から13年たっても、県民は新基地建設のための杭一本打たせていません。この事実をみても、SACO合意の破綻は明らかです。鳩山首相は、この問題について年内に結論を出すと言明しています。私たちは沖縄県民に連帯し、民意に沿っての解決を求め、基地の国外撤去を強く要求するものです。日本国民は伝統的に自然を賛美して生活をしてきました。辺野古の海は悲惨で残酷な沖縄戦を見てきています。この「美ら海」を破壊することにもつながる新基地建設に反対する沖縄県民の願いは、私たちの願いでもあります。

米国政府は、原子力推進空母「ジョージ・ワシントン」(97千トン)を横須賀基地に配備しました。幾度となく核事故を起こしている原子力艦船は、1年の半分、横須賀に停泊します。首都圏を核の危機にさらす原子力艦船の配備に強く反対します。

「思いやり予算」は、国民の反発で2005年度に比べ319億円減っていますが、2009年度、2039億円が国民の税金から米軍に支払われることになっています。米軍の活動に必要なものは、米軍の負担と米軍地位協定で決まっているのです。そもそも日本の負担に道理はないのです。米軍は米国の軍事戦略のために日本に駐留しているのであって、「日本防衛」のためにいるのではありません。「思いやり予算」は国民にとって有害無益です。基地をなくし、平和な日本を築き上げていくためにも、「思いやり予算」の全廃を求めるものです。

人間にとって平和は当たり前のことですが、“たたかわない”と得られない社会になっていることを広く国民に呼びかけていく必要があります。

Bプルトニウムを生産利用の核燃料サイクルからの撤退を! 

電力業界と国は、2015年までに全国の原発16〜18基にプルサーマル導入計画を進めており、玄海・伊方・浜岡原発などで導入を推進しています。日本科学者会議のエネルギー・原子力問題研究会は、プルサーマル技術の必要性と安全性について検討し「プルトニウムという危険な放射性物質を大量に社会に流通させる一方、資源の有効活用のメリットは小さく、処分に困る劣悪なプルトニウムを大量に生み出す極めて拙劣なプルトニウム利用技術だ」との結論に達し、「プルサーマル計画を凍結して、核燃料サイクル政策の抜本的検討を行い、改めて国民的合意を形成すべきである」と、資源エネルギー省と政権与党である民主党に申し入れを行っています。

私たちは、核兵器不拡散・廃絶に真に貢献するためにも核燃料サイクルからの撤退が不可欠であると考えています。鳩山首相に強いリーダーシップを発揮し、世界からの懸念の声を払拭することを強く求めるものです。各県反核医師の会・会員は”プルサーマル・ストップ“の運動に参加しています。PANWとしても今後、学習、討論を深めていく必要があります。

(5)6カ国協議を再開し、朝鮮半島・北東アジアの非核化を!

 45日訪朝中の中国温家宝首相との会談時、朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)の金正日労働党書記は「6カ国協議を含む多国間協議を行う」意向を表明しました。6カ国協議は、昨年12月を最後に開催されていませんでした。北朝鮮は4月、周辺諸国の憂慮の声を無視し、「ロケット」発射を強行しました。国連安保理が、北朝鮮を非難する議長声明を採択すると、6カ国協議からの離脱を宣言し、2回目の核実験を強行しました。国際社会は北朝鮮に対し、6カ国協議への無条件復帰、2005年に採択した6カ国協議共同声明の履行を要求し、6月には、国連安保理で制裁決議1847を採択しました。今回の北朝鮮の「復帰拒否の態度変更」を歓迎するものですが、事態はまだ定かではありません。日本の新政権が、この問題でも積極的な話し合い外交を推進し、朝鮮半島・北東アジアの非核化に向けて奮闘することを強く要望するものです。私たちは、北朝鮮の医師たちとコンタクトを持つJPPNWの医師たちとともに、北朝鮮のIPPNWへの参加、意見交流が出来る日が一日でも早くくることを望んでいます。

U.原爆症集団認定訴訟はまだ終わっていないー「原爆症集団認定訴訟の終結に関する基本方針に係わる確認書」について

死の恐怖に怯え、苦しみ続けて生き抜いてきた広島・長崎の被爆者は「生命があるうちに、なんとしても被爆の残酷な実相を告発したい」との思いで、2003年原爆症集団認定訴訟を起こしました。6年を経て、国は敗訴を重ね、熊本地裁判決で19連敗になりました。その後控訴を断念し、一審勝訴判決に従い原告の原爆症認定を行うこと、原告に係わる問題解決を計るために厚生労働大臣との定期協議の場を設けること等々、原爆症認定訴訟の一括解決を決定し、「確認書」の調印を日本原水爆被害者団体協議会・原告団・全国弁護団連絡会に申し出し、被団協はこれを受け、86日調印を行いました。

この「調印」のみならず、裁判を通じて大きな成果をあげました。残留放射能の外部被爆・内部被爆による深刻な影響として、長期にわたって被爆者の心身を蝕む核兵器の残忍さが、司法界の中、医療従事者や国民の中に広く認識されたこともひとつです。6年間で、306名中68名の原告の方々が勝利の声を聞くことなく亡くなっています。哀悼の意を表するとともに、原爆症とたたかってきた被爆者が、社会の偏見や放射能の影響を小さく描く強大な権力と真っ向から対決して、被爆の実相を明らかにしてきた勇気に改めて敬意を表するものです。

被告である国が控訴を取り下げるという事は、戦後の裁判史上で例のないものです。

官房長官が陳謝し、「確認書」の被告側の調印者が総理大臣としてだけでなく、議員立法による基金を設ける事を約束した関係で自民党総裁としての麻生太郎となっていることも異例です。今回の「確認書」の交換で原爆症認定集団訴訟は終結に向かいますが、課題は山積されています。原爆症認定申請書が8000近く残されている事、23万人余の被爆者援護問題が解決されたわけでなく、原爆症の認定基準が変わったわけでもないのです。また、原告の問題解決に活用されるとある、基金の内容も具体化されていません。しかし、これ等の残課題の解決に道筋をつけたこの「確認書」調印を理解し、手を緩めることなく被爆者救済・核兵器廃絶に向けた運動を、さらに大きくしていく必要があります。

「唯一の被爆国として、原子爆弾の惨禍が繰り返されることの内容、核廃絶に向けて主導的役割を果たし、恒久平和の実現を世界に訴え続けていく決意」を表明した官房長官談話の実践を、新政権・全政党が緊急に進めていくよう運動を強化していきましょう。

そして、被爆者・核廃絶を願う世界の人々と連帯し、成果を共有していきましょう。

この裁判のなかで、協力を惜しまず奮闘された医師、認定書書類を書き、意見陳述などで法廷に立ち、感動的な意見などを述べたPANWの会員医師を誇りに思い、敬意を表します。

V「核戦争に反対する医師の会(PANW)」の活動について

「反核医師の会」は、2004年札幌の“つどい”で、会の「申し合わせ事項」を提起、1年間の論議を経て、2005年愛知での“つどい”で確認し今日に至っています。

200910月末時点で、会員数32団体、個人369名となっていて、会費納入率は約80%です。活動を活発化させ、会の理念の達成のためには不十分な状況です。

“つどい”開催県の鹿児島からも少なからぬ医師たちが会員になりました。私たちは、診療場面のみならず、この運動を通じて多くの被爆者との出会いが出来ました。多くの医師たちは、「人の苦しみや痛みをどれだけ知り、共有できるかが、どれだけ人間性を豊にするか」を実感しながら活動しています。「核兵器廃絶」を願い、ともに活動する世界の医師達と語り、論議することで視野を大きく広げることが出来ました。今日ご参加の皆様に、是非この機会に会員になっていただきたいと、お訴え申し上げます。各県の「反核医師の会」の会員になるだけでなく、全国組織である「核戦争に反対する医師の会(PANW)」の会員になっていただくことがこの運動の高揚に不可欠であります。

この1年間の活動を振り返り、来年度の活動に生かしていきたいと考えています。

「反核医師の会(PANW)」は2ヶ月に1回、代表世話人・事務局合同会議、常任世話人会(10月末現在25名で構成)、「国際部」「広報宣伝部」「被爆者医療部」の専門会議などを開催しています。これ等の会議で課題の設定や具体化に向けての提起を行っています。

@昨年の金沢での“つどい”で学生部会が発足しました。発足提起を行った領家由希さんは、被爆地長崎で医師研修をスタートさせています。初代部長に選出された奥野理奈さんは、挨拶の中で「医学生ならではの特色ある活動」を担っていく発言をされました。今後会として十分な支援・協力をしていくために「財政支援の確立」「会での位置付け」「学生部会メンバーとの定期懇談」等々論議を進めていきたいと考えています。

A原爆症認定集団訴訟では、原告団団長、弁護士をお招きし、学習を重ねながら、各地の支援ネットワークに参加、認定申請書の作成に関わり、法廷で意見陳述するなど、法廷でのたたかいの勝利に大きな貢献をしてきました。日常の被爆者医療の取り組みに邁進しつつ、今後も力を発揮していきたいと思っています。

B「申し合わせ事項」の理念達成の事業活動のひとつとして、IPPNW運動への協力と世界大会・北アジア大会への参加が記されています。昨年のIPPNWデリー大会、今年の南北アジア合同会議にも積極的に参加してきました。参加の成果を共有するために、“つどい”や機関紙などで報告等を必ず行ってきました。来年の“つどい”は近畿各県の協力を受けて、奈良で開催予定です。世界大会は、スイス・バーゼルで開催されます。

C「PANW」では、「核を巡る情勢」に対し感性を豊にし、折に触れ抗議声明、要請書などを出してきました。核問題での政党・全国会議員へのアンケートなどを行い、日本の核問題に対する認識の把握に努め、行動指針に活かす努力を行っています。新政権首相・外務大臣宛にも要請書を送っています。また、会員メーリングリストの作成をし、情報交換や論議の場として活用しています。会として取り組む課題等を示唆されることも多く、会員の連帯・意見交換の場ともなっています。

D各県の「反核医師の会」は、IPPNWが提唱したICAN運動(核兵器廃絶国際キャンペーン)を真正面から受け止め、創意工夫をした取り組みを進めています。この運動は医療者や医療専門職のみの運動ではなく、誰もが出来る運動として世界中に広がっています。この運動をさらに進め、他の組織、個人と協同していきます。また、原水爆禁止世界大会で提起され、来年5月のNPT会議に向けて取り組まれている「核兵器のない世界を」の署名活動も積極的に取り組み、国内1200万目標達成に貢献すべく奮闘していく決意です。

E私たち「PANW」は、「核兵器廃絶」を掲げる、あらゆる組織と連携し活動をしてきました。とりわけ、JPPNWとの連帯・交流を重視してきました。各県「反核医師の会」でも、JPPNWの幹部である医師・医学者をお招きし、講演などをしていただいています。今後も、「核兵器廃絶・被爆者救済、援護」などの共通の課題をともに取り組んでいきたいと考えています。今回の“つどい”にもJPPNWの副支部長でもある朝長先生のご講演をお願いし、快くお受けくださいました。感謝申し上げます。スイスで開催予定のIPPNW世界大会では、共同で取り組める課題の検討など、武田常任世話人を中心に行っていきたいと考えています。設立20周年記念事業として翻訳・発刊した「平和へのアクション101+2」の普及部数は約2400冊となり、目標を達成しています。この本の巻頭言を、片岡勝子先生にお書きいただいています。

F20089月、日本とオーストラリアが主導し、核兵器廃絶に向けた道筋を各国に提言する目的で発足したICNND(核不拡散・核軍縮に関する国際委員会)の準備段階で、「ICNND日本NGO・市民連絡会」が結成されました。この連絡会の意見交換会に松井常任世話人、中川共同代表世話人を中心に積極的に参加しています。PANWは101720日に行われた「ICNND広島会合」に合わせ、常任世話人会を広島で開催し、18日に開かれた「ICNND広島会合国際市民シンポジウム」に参加、「核兵器のない世界」へ飛躍していく決意を意思表示しました。このシンポジウムの広島実行委員として、青木常任世話人が奮闘されました。

ICNNDの提言最終案は11月中旬にまとめられ、来年1月に報告書が発表される予定です。提言最終草案は、被爆者や市民社会、平和市長会議が求めるものとかけ離れており「世界的な核廃絶の流れから取り残されるのではないか」と危惧されています。私たちは、核兵器廃絶の運動を進めてきた過程で、幾度となく落胆したり、敗北感に覆われたりしましたが、今日までの活動の継続が、次の新しい勝利への準備であったことを証明するためにも奮闘していきましょう。

1210日、オバマ米大統領にノーベル平和賞が授与されます。意見は様々ですが、大統領のプラハ演説を契機に核兵器廃絶の流れが大きくなってきたことも感じられます。

ノーベル賞委員長のヤーグラン氏は、「オバマ氏は言葉だけだ」という人に対し、「言葉を過小評価してはいけない。言葉は時に危険だが、時に人に希望を与え、その希望が物事を良い方向に変える」と述べ、「世界がオバマ氏を助ける必要がある」と強調しています。

上述したように、「核を巡る情勢」は急速に変化しています。来年のNPT再検討会議を前に、米国・ヨーロッパ・日本などの平和団体は、核兵器廃絶ために3つの行動を提起しています。IPPNWも参加している「廃絶2000」の国際団体も共同呼びかけに署名しています。「呼びかけ」では、今の情勢を「核兵器廃絶への絶対逸してはならない機会」とし、オバマ大統領の核兵器廃絶の約束を大いに歓迎すべきことだとしながらも、「廃絶を無期限の彼方に追いやってはならない」と述べています。

そして、

@NPT再検討会議に呼応して、現地での国際平和会議の開催。

Aニューヨークと世界各地を結ぶ「核兵器のない世界のための国際行動デー」。

B再検討会議への署名提出。

PANWは積極的にこの3つの「呼びかけ」に応えていきたいと思います。

医療に従事する私たちは、日々の医療活動のなかで患者・利用者は、人間が大好きな医療人を拒否しない事を実感しています。たくさんの人々に訴え、核兵器廃絶に賛同する同意者を増やす活動は、人間の尊厳を守る人間性に満ち溢れた運動だと思います。唯一の被爆国の医師として、平和憲法九条を持つ国民のひとりとして「核戦争を防止し、核兵器を廃絶」する運動に、世界の人々と連帯して奮闘していきましょう。

「偶然は準備のない者に微笑まないーパスツール」。誠実で地道な小さな活動の積み重ねは、偶然とも思える、人類を危機から脱却させる「核兵器ゼロ」という大きな出来事を起こすでしょうし、人類にとって進歩と革新となる歴史をつくりあげていきましょう!