NPT再検討会議
PANWのつどいinニューヨーク(報告)
核戦争に反対する医師の会は、2010年5月3日から開かれたNPT再検討会議に合わせ、ニューヨーク市で「PANWのつどいinニューヨーク」を開催した。全容を報告する。
■2010年5月4日10:30〜12:00
■SEIU講堂(ニューヨーク市)
■参加者:31人
■ゲスト
○ビクター サイデル Victor W. Sidel(元IPPNW共同会長、元PSR会長、元アメリカ公衆衛生学会会長)
※PSR(physicians for social responsibility )=IPPNWのアメリカ支部を兼ねている
○キャシー ファルボ Cathey Eisner Falvo(PSR ニューヨーク支部代表)
○ジョン ロレッツ John Loretz(IPPNWのプログラム・ディレクター)
○金 マリア Kim Maria(平和ネットワーク/韓国)
○井上哲士(参院議員/共産党)
■講演概要
サイデル氏は、ICANが中心に進めている核兵器禁止条約の運動を紹介。今回のNPT再検討会議で重要なのは、「被爆の実相を伝え、核廃絶の必要性を再認識させることであり、核保有国をはじめとする政府代表団を説得することがわれわれの任務だ」とし、他のNGOなど世界の運動と協力して進めることの重要性を訴えた。
ファルボ氏は、核実験の影響による疾病・疾患を政府に認めさせるまで、長い時間を要した経験を語り、「原爆や核実験の被害者が、核兵器の恐ろしさを政府代表団に直接語ることが極めて重要だ」と述べた。
ロレッツ氏は、「いま、大きな障害は『核抑止』という考え方だ」とし、核兵器の存続理由、目的としての核抑止論を批判した。日本もアメリカが提供する核の傘に依存する関係にあれば、標的になりうる危険性を示唆し、「日本において、核抑止依存という考え方に終止符が打たれるよう、ご尽力いただきたい」と呼びかけた。また、広島の数百発分の威力がある現代の核兵器が使われた場合、地球の気候に影響があり、農産物の成長期にあたれば、直接的に殺傷されるだけでなく、飢饉というかたちで10億人の命が奪われるという気候学者らの最近の研究を紹介。「われわれの安全を保障してくれる核兵器の数、それはゼロだ」と断じる一方、米国民は「核兵器に守られている」という意識があり、イランについても米国が核を持っていることによって問題解決が困難になっていることに意識が及んでいない現状を語った。
金氏は、広島・長崎で韓国人被爆者の通訳を行ったのがきっかけで核問題に興味を持ったという。韓国の人々は、「核は韓国・朝鮮を開放してくれた」との考えから、強く反対する理由も動機も感じておらず、今回の会議でもメジャーなメディアはまったく取材に来ていないという。北朝鮮の核問題もあり、反核運動が難しい社会状況の中で、核廃絶を目指す世界の動きを伝える決意を述べた。
井上氏は、2000年会議における完全排除の約束の再確認と、核兵器廃絶のための国際交渉を始めるという合議を求める要請について、カバクチュラン議長やドゥアルテ国連上級代表をはじめ、会談した多くの国から賛同を得たことを紹介。被爆2世でもある井上氏は、原爆症認定訴訟における医師の役割の大きさに触れ、「被爆の実相を伝え、原爆症に苦しむ人々を前進させる点でも、そのおおもとの核兵器をなくすという点でも、皆さんと力を合わせていきたい」と語った。
■全文
ビクター・サイデル(元IPPNW共同会長) アメリカのPSRを代表して、またIPPNWを代表してみなさんにお目にかかれることをうれしく思います。20年前のIPPNW広島大会や、15年前にも仙台に参りまして、みななんの団体のおかげで全国を回って大変なおもてなしをいただきました。核廃絶のためにご尽力なされていることに敬意を表し、再会を喜びたい。
5年ごとに開かれるNPT再検討会議で、今年、大変重要な機がめぐってきました。13の具体的な核廃絶に向けたステップで、前々回合意されたものについては、いまだ実現されていないという重大な時にあります。
重要な課題がたくさんある中で、まずNPT第6条の義務ですが、これは核軍縮だけでなく、それ以外の兵器についても軍縮等の義務を定めています。国際司法裁判所に向けて多くの署名を日本国民、日本の医師のみなさんが集め、世界の核保有国が核を廃棄し、軍縮に向かうべきであるという意見を国際司法裁判所に届ける上で、大変大きな力を果たされたと思います。
国際司法裁判所が「世界は核軍縮に動くべきである」というあの判決を出してから現在まで、ほとんど進展がみられないということからも、今回の再検討会議が重要であり、また核保有国がすみやかに核軍縮に向けて動くように持って行くことが重要であることが分かると思います。
アメリカでの運動のひとつに、ICANが中心となって展開する核兵器禁止条約に向けての活動がありますが、核保有国からは今のところ、このような条約締結に向けての好意的な動きはほとんどみられません。私もICANやIPPNWを通じ、核兵器禁止条約の起草などに関与してきました。
今回の再検討会議で重要なのは、1945年に広島と長崎で何が起こったのか、そしてそれを決して繰り返すことなく、廃絶へと向かわなくてはならないということをもう一度認識することでしょう。ほかのNGOと協力して、核保有国をはじめとする政府代表団に対してこの重要性を説得することが、われわれの任務だと考えます。
同僚を紹介します。キャシー・ファルボ先生はIPPNWに参加しているアメリカPSRのNY市の組織の会長です。核軍縮とあわせ、地球温暖化の問題にも力を入れており、この2つのテーマはPSRがアメリカ全国組織として取り組んでいます。
ジョン・ロレッツさんは、オルガナイザーとして大変有能な方で、IPPNWの中央本部でプログラムを担当しています。冒頭で、日本でたいへんなもてなしを受けたと紹介しましたが、世界が別々に活動している余裕はなく、一緒にやらなければ何もできないのです。今後も互いに協力していきたいと思います。
キャシー・ファルボ(PSR ニューヨーク支部代表) 今回の重要な会議に、遠くからこれだけ多くの皆さんがおいでになったことを嬉しく思います。
私たちが禁止したいと思っている兵器がもたらす影響を知る人は、2通りいるのではないでしょうか。1つはみなさんのような方々、もう一つは、核実験場で死の灰の影響をみた人、いわゆるダウン・ウインダーといわれる人たちであります。米マーシャル諸島をはじめ、世界各地にこうした影響を受けた人たちがいます。彼らが直接的に核兵器の恐ろしい影響をみて、政府代表団に語るということが極めて重要だと思います。
こうした活動における協力がいつまでも長く続かずに終わってくれれば、それに越したことはありませんが、残念ながら、核兵器をゼロにもっていくには、長い過程が必要なのではないかと思っています。
ジョン・ロレッツ(IPPNWのプログラム・ディレクター) 5年ほど前に広島・長崎に行く機会があり、大変感動的で、この重要な私の任務を続ける上で、新たなエネルギーを得ました。
今回、このNPTのためにNGOがたくさん来ているので、正確にはわかりませんが、IPPNWからも10カ国位から35人ほど来ているのではないかと思います。
今回の再検討会議での私たちの目的は2つ。まずは核兵器廃絶の国際キャンペーン、そして核兵器禁止条約です。これは2つの側面から考えることができます。核兵器、核戦争がもたらす医療・医学・武器および環境的な影響、核戦争が起こってしまうとどんなことが起きるのか―という視点がひとつ。そして政治的な視点からは核兵器禁止条約、つまり核兵器を条約でもって包括的に禁止しようというのが、われわれの政治的な目標です。
広島と長崎の原爆投下以来、1つの街にたった1発の原爆が投下されれば、どんなことが起きるかということを知らされました。また、米ソ冷戦中には数千発の核兵器でいったい何が起きるのか、それは地球上の生命がほとんど死に絶えてしまう「核の冬」であるということも学びました。この2〜3年間では、今日の、比較的少数の核兵器であっても、広島の数百発分の影響力をもつものが使われてしまえば、地球上の気候に影響が出ることが、カール・セイガン博士らアメリカの気候の研究者たちによって分かってきました。農産物の成長期に影響すれば、生産できなくなり、直接的に命を奪われるだけでなく、核の飢饉というかたちで、10億人の命が奪われるともいわれています。
このように、核兵器が科学的・医学的にもたらす影響は何かということを、われわれは知るに至りました。そしてもう1つ、はっきり分かったことは、われわれの安全を保障してくれる核兵器の数、それは「ゼロ」だということです。
そこで、IPPNWをはじめ、弁護士・法律家、エンジニアの団体が協力して、モデル核兵器禁止条約の起草にかかわりました。この条約締結に向けた交渉を開始できるように、実際の禁止に向けて条約が発効するように、どのような準備作業が必要かを含め精力的に取り組んでいます。
いま、大きな障害は「核抑止」という考え方です。核兵器の存続理由、目的としての核抑止論です。昨年4月、オバマ大統領はプラハ演説の中で、「核兵器の廃絶に取り組みたい」としながら、すぐに続けて「核兵器が世界に存在する限り、自国と同盟国のために強力かつ効果的な抑止力を維持するつもりである」と述べている。このような抑止論に依存する限り、核兵器を存続することが保障されるわけですから、これは大きな問題です。
これが特に日本にとって重要な意味をもつのは、日本はアメリカのとの関係で、拡大抑止、いわゆるアメリカが提供する核の傘に依存しているという関係にあるからです。これは、いわば射撃の標的のような、目に付きやすい目標を自ら持っているようなもので、核兵器を使われようとするときの大きな目標になります。核の傘というのは、そういう傘なのです。日本において、核抑止依存という考え方に終止符が打たれるよう、ご尽力いただきたい。そうすることによって、核兵器禁止条約の締結に向けた作業もやりやすくなるのではないかと思います。
サイデル (国連の会合を紹介。テーマは核兵器が使われた場合、気候変動にどういう影響をもたらすか。原爆調査委員会として原爆投下直後に広島に入ったジェームズ山崎博士も来る)
最後に、アメリカの炭鉱労働者が書いた詩があるので紹介します。これはSEIUの組合の歌にもなっています。
Step by step the longest march Can be won, can be won.
長い道のりの行進も 一歩一歩進んでいけば 勝ち取ることができる
Many stones can form an arch Singly none, singly none.
たくさんの石が落ちて来る でも一つ一つの石は 何でもない
When by union what we will can be accomplished still.
組合のもとで手をつないでいけば 何でも達成することができる
Singly none, singly none
1人ではできない バラバラではできない
みなさんと一緒に行動できて光栄です。団結すれば何でもできますが、バラバラでは何もできないと思います。
〜会場から〜
アメリカ国内で、一般市民はどのくらい核廃絶に関心をもって行動しているのでしょうか。
サイデル 広島と長崎でどのくらいの人命が失われたかということがニュースとして届かなくなってしまい、アメリカの国民の中でも、核兵器に対する意識が消えてしまっていると思います。私たちは、特に若い人たちに対して、例えばインド・パキスタンで小規模な核戦争が起きたとしても、大変な飢饉が世界的な規模で起こりうるということを分かってもらうよう力を入れています。そういうことが認識されれば、核兵器は禁止すべきだという意識も高まると思います。
ロレッツ アメリカのメディアの影響もあって、アメリカ国民が核兵器のことを考えるとすれば、例えばアルカイダのような組織が核兵器を入手して、アメリカ国内で使うのではないか―という「核のテロ」に関することで、アメリカの持つ核兵器がどういう影響を及ぼしているかについては無知といっていいと思います。たとえば、日本国民がアメリカの核兵器に守られているという考え方がよく知られているとするならば、アメリカ人は自分たちの核兵器によって自分たちが守られているという意識があります。核は誰も守らない、核は廃絶するしかないということを、啓蒙していかなければならないと思います。(3935)
イランについても、アメリカ人はイランに核兵器を入手させてはいけないと思っているけれど、自分たちが核を持っていることによって問題解決が容易になるのではなく、むしろ困難になっているということには意識が及んでいません。
斎藤基(鳥取) マーシャル諸島ではどのくらいの被害者がいるのですか。4400
ファルボ ネバダ州は州境を越えて北東部のユタ州南部まで及び大変多くの人が被害を受けましたが、はっきりした数字は分かっていません。ビキニ諸島での実験で、マーシャル諸島の人が被害を受けたように、非常に広範囲に広がっているわけだが、こうした人々が受けた健康上の影響や疾病、疾患が、おそらく核実験によってもたらされたものであろうと政府に認めさせるまで、ずいぶん長い時間がかかりました。
サイデル アメリカの癌学会も長年議論した末、放射性ヨードが甲状腺癌の原因になっていることを認めました。実際、これによって子供の甲状腺癌が非常に多く発生していることが認められました。1986年にネバダ州ラスベガスで米公衆衛生学会の会合が開かれた時、まだ核実験が続けられていたので、私たちが学会としてデモ行進などをしました。多くのメンバーが逮捕されましたが、この分野で大変力を入れているということの現れであり、他国からのいろんな支援もあって、実験の停止、核兵器の生産停止にも繋がったのは大切なことだと思います。
徳田秋(愛知) 15年前に一緒に活動していたメンバーも変わりました。まだまだ核兵器に対する運動は続けなければなりません。若い世代に引き継げたことを嬉しく思います。
浅妻南海江(Project・Gen/石川県) 漫画「はだしのゲン」のロシア語・英語訳をしており、石川県金沢市の反核医師の会にはお世話になっています。2001年にロシア語版全10巻、2009年に英語版を完成した。今回、再検討会議に並行して原爆展があるというので、ぜひ「はだしのゲン」も若い人に読んでもらいたいと思って来ました。NYの公立図書館に行くと、1〜2巻はすでにあり、寄贈するなら喜んで受け取るというので、そうするつもりです。この1〜2巻は、ある日本人がアメリカの3000の公立図書館に寄贈したそうです。明日は国連のインターナショナルスクール1年生と3年生を対象にDVDを見せて簡単な話をしてきます。
金マリア(平和ネットワーク/韓国) これまで、反核のために活動されている医師の方々のことを知りませんでしたが、専門的な知識と技術をもって、こうした意義ある活動をしていることに感動しました。私にできることは何かを考え、反核のために自分を磨いていきたい。
核問題について興味を持ったのは、広島・長崎に行ってからです。昨年の7月〜8月、日本のピースデポでインターンをしました。それまでは興味もなかったし、知識もなかったのですが、8月に広島・長崎に行き、韓国原爆被害者協会会長の金龍吉(キム・ヨングル)さんの証言を通訳しました。そんな事実が歴史上にあったことを初めて聞いて驚きました。通訳したい内容ではなく、つらいのですが、誰かが伝えないといけないと思ってやりました。韓国に戻ってから、韓国の若い人々を含め、一般の韓国人に伝えたいという思いが強くなり、ソウルの「平和ネットワーク」でインターンをしました。2月に卒業した後は、そこでコーディネーターとして働いています。
被爆者が約70万人とすれば、うち7分の1、10万人くらいが韓国・朝鮮人と聞きます。そのことを韓国人はほとんど知らないし、核の危なさ、怖さを知りません。韓国人は、歴史的な観点で、核は韓国・朝鮮を解放してくれた武器だと思っています。良いものだとは思っていませんが、強く反対する理由も動機も感じていないのが事実です。また、北朝鮮の核問題もあるので、核に反対して、韓国も核をもたないという考えを受け入れるのはすごく難しい社会の雰囲気があります。今回、日本から多くの方がNYに来ましたが、韓国からは20人くらいで、ごく少人数しか来ませんでした。メジャーなメディアも来ていません。5月1日にパン事務総長の演説の時くらいは来るだろうと思っていましたが、現れたのはたった1人、それもメジャーなメディアではありません。そのくらい、韓国ではこの問題について知られていないし、興味がないのです。
2010年の5月、NYで何が起こっているか。反核のため、核のない世界のために私たちが何をしているか。韓国に戻ってからも積極的に伝えていきたいと思います。
平林邦昭(大阪) 大阪民医連は、毎年韓国平和ツアーをやっていて、今年はプサンを予定しています。広島・長崎の原爆資料館は、解説が日本語と英語だけですが、中国語とハングルを加えてほしいと中国新聞に投書しました。これによって、中国や韓国から修学旅行生が来てくれるのではと期待するからです。日本人の過去の戦争に対する反省というのはまったく不十分ですが、こと核兵器に関しては、中国、韓国、東アジアから反核のうねりを上げていくことが重要であり、そのためには平和資料館をフルに活用することが重要だと思います。
井上哲士(参院議員/共産党) NYには志位和夫委員長を団長に3人で来ましたが、志位委員長と笠井はバーモント州を訪れています。バーモント州議会は、今年、上院・下院ともに、核兵器廃絶の国際交渉をすみやかに始めるべきだという決議を上げています。アメリカの地方議会の動きとしては非常に画期的なことで、そことの懇談会があるためです。
核兵器廃絶の新しい流れの中で、今回の会議を成功させるための、一つの大きな柱は、みなさんの草の根の世界の動きですが、各国間の交渉がどうやられていくかということも必要なので、私たちはこの間、NPT再検討会議に対する要請をつくり、2日はカバクチュラン・NPT再検討会議議長、ドゥアルテ国連上級代表と会談しました。非同盟諸国のキューバ、新アジェンダ連合の中心であるスウェーデンをはじめ10カ国以上と会談し、米国政府関係者とも会談する予定です。
2000年の会議で確認された各国の完全排除を達成するという明確な約束を再確認すること、核兵器廃絶のための国際交渉を始めるという合議をつくることが今度の会議でどうしても必要だという2点に絞って要請してきました。カバクチュラン議長やドゥアルテ上級代表をはじめ、多くの国は「完全に一致する」と賛同の声があり、国際的な流れが広がっているなと実感しています。
同時に、イランの問題、中東の非核地帯化問題などをめぐっていろんな動きがあり、
「アメリカは全員一致の合意文書はあきらめた」というような報道もありました。今回、トップが参加しているのはイランだけです。初日にイランの大統領が演説し、「自分たちは核を平和利用しているのだ」というようなことを述べました。北朝鮮のように脱退をチラつかせながら、会議の成功にブレーキをかけるような動きがあります。議長は「共産党からも要請があった2つの問題で議長として全力を挙げるけれども、会議にはいろんな地雷がある」という言い方をされました。今回の再検討会議は、新しい成功の大きな機運があるけれど、本当に実らせるには、この1カ月が勝負になります。イランも北朝鮮も中東も、いろんな困難な問題があります。しかし、それがあるために、一番肝心な核兵器廃絶のための国際交渉を始めるという合意ができないというのは、まったく逆ではないでしょうか。イランの演説でも、アメリカがきちんと約束を果たしていないと非難していますが、核兵器国を中心に、核兵器廃絶の交渉を始めるという合意をつくること自体が、個別のいろんな問題を解決する圧力になります。あれこれの問題を理由にして後退させるようなことは逆だ、と話してきました。
被爆国日本の果たす役割の大きさを痛感します。被爆者を身近にみて、実相を聞きながら、運動の面でも理論の面でも大きく世界をリードしてきていると思います。私は広島で育ち、母親も入市被爆をしています。被爆二世の一人で、子供のころからいろんな話を聞いてきたし、自分自身としても、この問題は政治活動の原点として取り組んできました。5月5日は特別な日で、原爆の子の像が建立された日であり、52年前のこの日、私は生まれました。
前回会議は町村外務大臣が来ましたが、今回は総理も外務大臣も来ていません。被爆者の方々も、なぜ被爆国の首脳が来ないのだと声を上げていました。世界の運動の中で日本がこれだけ役割を果たしているのに、政治の分野で役割を果たしきれていないのが残念です。
医療・福祉関係者のつどいでは、「被爆者を苦しめるのも助けるのもお医者さんだ」という発言がありました。原爆症認定訴訟の中でも、同じ医師という身分の人が診断し、一方では認定し片方では却下されるということが起きているということです。被爆の実相を伝え、原爆症に苦しむ多くのみなさんを前進させるという点でも、そのおおものと核兵器をなくすという点でも、みなさんと力を合わせて頑張りたいと思います。
吉川周作(奈良) 9月に「反核医師のつどいin奈良」が開かれます。ぜひ参加を。
長瀬文雄(全日本民医連事務局長) 北海道の川嶋先生が、ここに来るために1人で2800筆の署名を集めてきました。京都の川ア先生は約2000筆。そういう医師の運動が日本の運動を励ましていると実感します。「医療・福祉関係者のつどい」では、SEIUの医療関係者の労働組合を組織しているトニー・ルイスさんをメインゲストに招きました。アメリカの医療保険の話の中で、去年までは医師は一切、政治的なことにはかかわらないという職能団体でしたが、やはり医師たちが行動しようというスローガンのもとで行動を始めたと言っていました。SEIUの労働組合は研修医約3万人、全米の研修終了医師の5%を組織し、そこが核兵器問題に取り組もうというのです。アメリカの運動はもうひとつだと思っていましたが、新しい芽が出たかな、と思いました。
今回、民医連の参加者が自転車にぶつけられて救急病院に運ばれました。周りは見ているだけで、たまたま通りかかった日系2世の人が通訳してもらって救急車で行きましたが、救急病院では何もせず診察だけで、レントゲンもとらず、たぶん大丈夫だろうとことで実費で353ドル取られたといいます。こういう状態で、医療保険制度がどう変わっていくのか、アメリカの医療関係者と人民の運動によるかなと思いました。最後に、肥田舜太郎先生が28年前に出した幻の名著、『広島の消えた日』が復刊しました。ぜひお買い求めください。
松井和夫(反核医師の会事務局長) 再検討会議は始まったばかりですが、大きな進歩を期待することはできないだろうと想像しています。しかし、一つ一つの決議に一喜一憂するのではなく、今が核兵器廃絶条約に向けてのスタート点であり、今後、それを積み重ねていくという視点で運動を進めていくことが大切なのではないかと思います。そのためにも、世界大会、反核医師のつどいや、各地域での活動を積み重ね、2022年には核兵器のない世界が目に見えてくるような世の中を目指して頑張っていきたい。