国立老人病院    矢野 正明(東京)

はじめに
 8月11日の朝、コスタリカで最初の見学となる国立老人病院Hospital Nacional de Gerontologia y Geriatrfaを訪問した。米国での乗り継ぎの問題でヒューストンで一泊した方々は参加できずに残念なこととなった。

コスタリカの医療のしくみと老人病院の役割
 最初に院長のフランコ先生によるコスタリカの医療全般の説明と老人病院の概要についてパワーポイントを使ったプレゼンテーションを受けた。
 この国の社会保障は50年の歴史を持ち、「ゆりかごから墓場まで」というように出産も含めて保険で保障されている。医療費は無料である。デイケアーなども自己負担はない。医療のの90%以上を保険でカバーしている。外国人も医療を受けられるが自己負担が必要になる。それでも米国から治療費が安いということで手術を受けにやってくる患者もいるとのこと。
 財源不足もあるが、この8年間世界銀行の融資を受け施設の改善を行ってきた。
 この病院はコスタリカ社会保障金庫によって運営されている全国27の国立総合病院の1つである。特に老人病院として(1)高齢者特有の病気の治療(2)老人医療を担う人々の教育(3)老人病の調査研究と3つの特別な機能を持っている。

コスタリカでもすすむ高齢化
 コスタリカの高齢者人口は現在9〜10%程度である。コスタリカでも高齢化が進み、今後、20%になると予測されている。高齢化問題はますます重要な課題となってくる。その中でこの病院は高齢者医療の唯一の専門病院として活動を行っている。
.病院の機能
 病床数は一40床で平均在院日数は18日、痴呆老人等では90日になることもある。一日の外来患者は30〜35人(*これは少なすぎるように思います。私の記録が誤っているかもしれません)デイケアーや訪問診療、在宅介護にも取り組んでいる。在宅で800名の患者を管理しているという。
 スタッフの構成は医師50名(40%が女性)看護師150名(ほとんど女性)、総職員数500名となっている。
 手術が必要な場合は、他の病院に依頼、待機リストに掲載されることになる。そんなに長い待機期間ではないが、眼科では4〜5ヶ月待ちがある。精神科疾患、痴呆などは精神科専門病院へ紹介している。

プライマリーケアとの連携
 一般的に老人に限らず、最初は自分の居住するコミニュティーでのプライマリーケアを受けることになっている。必要があればそこからそれぞれ専門の病院に紹介されることになる。
 医療機関は首都圏に集中している。現在、11の老人医療クリニックがあるが、まだカバーできない地域もある。空白地域で老人医療の地方センターを作るように進めているが、1人のスペシャリストを養成するのに5年かかるのが現状であり、目標達成まではまだ時間がかかりそうだ。

プライマリーケアと専門医
 地域で第一線の医療を担う医師はプライマリーケアに特化した研修を受けている。自分の手に負えない場合はすぐに紹介するようになっている。プライマリーケア医の研修は個人の努力にかかっているとのこと。専門医への道を歩むためには試験を受けて面接を通ることが条件になっている。
 医師の養成は計画的に行なわれている。国内10大学に医学部がある。しかし、専門医になるには国内で唯一コスタリカ大学にある大学院を卒業しないといけない。

ボランティアの活躍
 退院後の療養を支えるために、家族のための講習会を開催している。
 また、ボランティアの活躍もめざましく、100名程度が活動している。すべて無償である。逆に自分たちでお金を出すくらいの気持ちでやっている。
 見学を終え病院を出たところで偶然、病院のボランティアで組織担当の方と出会い話になる。(この内容はぜひ、直接お話した方から聞いていただきたい)

社会的な入院は?
 「社会的入院はあるのか?」との我々の質問に、「家族の講習に力を入れている。あるにはあるが、数字は少ない」と答えていた。また「日本では独り暮らしの老人が増えているが、コスタリカでは?」との質問に対し「コスタリカでは家族の絆が強い。それでも少数ながらいる」との返事だった。
 ちなみに、全国に老人ホームが89施設ある。そこで高齢人口の約1%が生活している。老人ホームには、医療サービスのあるところ、ないところがあるという。

病院内の見学
 プレゼンテーションの後、モンヘ先生(??)の案内で病院内の見学を行った。病室は基本的に6人部屋、スペースはそれなりに取れていると感じた。リハビリテーション室やデーケアー室も見学できた。デイケアーではグループに分かれゲームなどを行っていた。
 以前、結核病院だったところを高齢化社会に備えて老人病院に改装したとのこと。やや手狭、使い勝手の悪さなどもある。ベランダには使用していない車いすや点滴のスタンドなどが所狭しと並べてあった。
 待合室はいっぱい。ストレッチャーの上で処置を待っている人もいた。しかし、受付の窓口は個別に仕切られていて、プライバシーが保たれ座って話しができるようになっていた。
 カルテ庫では職員が山のようなカルテと奮闘していた。我々に、こんなに大変なようすを写真を撮ってくれといっていた。病院のリネンサプライや職員食堂なども見学させてくれた。どのスタッフも陽気に私たちを迎えてくれたことに感謝したい。

コスタリカにおける歯科医療の現状
 今回見学した病院の中で唯一歯科の診療室もあった。ユニットが二台並んでいた。この規模の病院でユニット2台では入院中の患者の治療だけで手がいっぱいになるのではないかと思われたが、実際の診療の現場は見られなかった。8月12日の社会保障金庫の説明で歯科については治療の15%しかカバーしていない。残りは自費扱いで個人歯科開業医で治療しているとの説明があり、納得した。国立病院の歯科で治療が受けられるのは15%に過ぎないわけだ。
 私立病院で治療を受けられるのは比較的裕福な人で15%という。医科と歯科ではまったく逆転している。

おわりに
 コスタリカでは乳幼児死亡率を下げることに重点をおき、平均余命77.7歳を達成した。単に病気を治すということだけではなく、教育に力を入れ社会的投資も行っている。高齢化社会を迎えるにあたり、今度は老人医療に力点を移してきている。決して豊かではない財政の中で何が必要か、重点を決めて医療政策を決定していく。その手法がすばらしいと思った。
 今後、病院の敷地内に新しい病院を建設する計画があるとのこと。近代的な病院に生まれ変わり、実践的な老人医学を進歩させていくことを期待したい。