第17回核戦争に反対し、核兵器廃絶を求める
医師・医学者のつどいIN横須賀
基調報告
核戦争に反対する医師の会
常任世話人 武村 義人
はじめに
第17回「核戦争に反対し、核兵器の廃絶を求める医師・医学者のつどい」は横須賀・湘南短期大学で開催することになりました。横須賀は米軍再編計画で、原子力空母ジョージワシントンが配備されようとしている問題の地です。これに反対する地元の住民運動は「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」を中心に大きく広がりました。反対署名は48万人を超えました。くわしくは特別講演「米軍再編と日本の未来」をお聞きください。世界の情勢は米国の武力による外交により、危機と緊張の度を増しています。一方市民レベルでは平和を願う運動も大きな広がりを見せ、私達の会の重要性も増しています。激動する情勢をよく学び、多くの市民とともに反核の大運動を起こそうではありませんか。
(1)世界をとりまく核情勢
10月9日、北朝鮮の国営朝鮮中央通信は、地下核実験を実施したと発表しました。これは、核廃絶を求める全世界の人々の願いへの挑戦であり、また、1992年の朝鮮半島非核化共同宣言、2002年の「日朝平壌宣言」、昨年の第4回6カ国協議共同声明で北朝鮮自身が合意してきた誓約を踏みにじるものです。それは北東アジア全体の平和と安全を脅かし、新たな緊張を生み出す危険きわまりない行為であり、「第17回つどい」の名において厳しく抗議したいと思います。
私たちは、北朝鮮がこれまでの国際的な公約をまもり、ただちに核兵器開発をやめ、その計画をすべて廃棄し、6カ国協議にもどるよう強く要求します。また、6カ国協議にかかわる他のすべての国が事態の平和的解決と朝鮮半島の非核化のために粘り強く努力し、東北アジアで非核地域条約を締結することを求めます。さらに核保有国が核抑止政策と核による脅しを止め、世界のすべての国が核兵器拡散の脅威をなくすために、核兵器全面禁止の締結にむけて、すみやかな交渉開始を求めます。
この12年核兵器に関して三重の危機が続き、いまだ脱出する道が開けていないとされています。第1の危機は、核兵器の拡散・使用についての危機です。米国を中心とした「ならずもの国家」に対する政策は、先制攻撃さえ正当化し、実際に核兵器使用の懸念も強まっています。「悪い国」に対しては核の平和的利用も許さず、「良い国」に対しては核兵器の開発すら認めてしまうという二重基準がそこにはあります。また日本の六ヶ所村の核燃料再処理工場で「アクティブ試験」として国内では消費しきれない量のプルトニウムの蓄積が開始されました。このことは核不拡散の努力に逆行する懸念があり国際的にも批判の的となっています。第2の危機は、核兵器永続の危機です。米国政府は世論などに押されバンカーバースターなどの新型核兵器の開発は一時断念したものの、老朽化が進んだ旧来の核弾頭を単純で堅牢な新型核弾頭に置き換える政策を決定し予算化しました。また日本をも巻き込んだ米国のミサイル防衛計画は、ロシアを刺激し新たに核軍備競争の道に走らせています。第3の危機は、多国間会議の危機です。昨年5月に開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議は予想されたとはいえ、深刻な不信を残したまま成果を残すことなく終わりました。この状態は9月の国連特別首脳会議(「ミレ二アム+5」サミット)、さらには国連総会第一委員会(軍縮)においても変わりませんでした。
核廃絶のためにはこの第3の危機を打開することが特に重要であり、さまざまな努力が行われています。国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長の核物質と核技術の国際管理に関する積極的取り組みが評価され、昨年ノーベル平和賞が与えられました。また新アジェンダ連合と日本が国連第一委員会で協力して核軍縮にとりくみ、カナダやメキシコが中心となり、全会一致をとるジュネーブ会議の行き詰まりを打開しようと意欲的な取り組みが行われました。NGO活動では、中堅国家機構が立ち上げた「6条フォーラム」、核兵器廃絶地球ネットワーク「アボリション2000」またそれに大きな力を与えた平和市長会議の「ビジョン2020」などが重要な役割を果たしました。さらにこの1年は被曝60周年として、被爆者の献身的な活動が国際的に繰り広げられ世界中の人々に大きな感動を与えました。
米国の妨害による多国間会議の困難な中で、史上初めての非核地帯加盟国会議が昨年4月にメキシコシティにおいて開催されました。「非核兵器地帯条約加盟国・署名国会議」と称される107カ国が対象となる国家間国際会議です。決議文では会議の目的を次のように述べています。「NPTに関する会議の機会をとらえて、非核地帯を確立したトラテロルコ条約,ラロトンガ条約、バンコク条約、及びペリンダパ条約の加盟国及び署名国、そしてモンゴルが、非核地帯体制を強化し核軍縮と核不拡散に貢献する目的を持って、またとりわけ、核兵器のない世界という普遍的な目的達成に貢献しうる協力方法を検討するために会合した」
(2)世界の脅威となりつつある「日米同盟」
ニューヨークの同時多発テロから5年が経過しました。これをきっかけに米国政府は「ならず者国家」政策を強化し、威嚇と武力による外交をとり続けています。しかしアフガニスタン、イラク攻撃が失敗であった事は時が経につれ明らかになり、アメリカの報告でも、攻撃の大義名分であった大量兵器が存在しないこと、イラク攻撃で返ってテロが増したことは明らかです。またこれらの一連の動きを無条件に支持し協力してきた日本政府もこの路線を推し進めようとするだけではありません。ミサイル防衛計画に積極的に取り組む姿勢を示し、核武装論さえ述べられているのです。
昨年10月29日、日米安全保障協議委員会は報告書「日米同盟―未来への変革と再編」を発表しました。国際テロや大量破壊兵器の拡散というグローバルな課題という口実を用いていますが、地球規模で強力かつ迅速に行われる米国の世界戦略の下に、日本の自衛隊が組み込まれることを意味します。またこのような目的で、在日米軍基地の再編を行おうというのが「兵力態勢の再編」勧告です。沖縄をはじめ各地で様々な米軍基地問題が持ち上がり、住民の反対運動も広がりを見せています。原子力艦の横須賀母港化については冒頭で述べたとおりです。岩国では住民投票でも市長選挙でも「基地強化ノー」の意思表示がされました。それにもかかわらず日本政府は何ら国民にコメントすることなく、ますます米国に言いなりの姿勢を強めています。
イラクにおいて陸上自衛隊は撤収しましたが、航空自衛隊は残りその活動範囲を拡大して米軍とともに戦闘行為を行うという完全なる違憲状態にあります。また米軍再編に関連して自衛隊中央即応集団を編成し、さらに実働部隊の予算化までもが行われています。小泉内閣に続く安倍内閣は戦後レジュ―ムの脱却として、あの侵略戦争を正当化し、また憲法改正を公約に挙げ、集団的自衛権という米軍とともに戦闘行為が可能な国を目指しています。
一方では平和を願う国民の願いは強くなり、各地で憲法9条を守ろうと無数の「9条の会」が結成され活発に活動しています。日本の平和だけでなく世界の平和を保障する憲法9条、これを守ることと核廃絶運動の目的は同じです。大きな運動にしてゆかなければなりません。
(3)原爆症認定集団訴訟 被爆者医療の取り組み
原爆症認定集団訴訟は、5月に大阪で、8月に広島で画期的な勝訴を得ることが出来ました。直接被曝しかも近距離のみにしか認められていなかった原爆症ですが、今回の判決は残留放射線による内部被曝、入市被爆曝も認めるというものです。このたたかいでは、医師団による意見書の提出や法廷での証言など、勝訴に重要な役割を果たしました。2つの判決とも例外なく全員が勝訴したということは、今後の裁判にも、原爆症認定においても大きな影響力をもつことでしょう。国は控訴しました、これは裁判中にも何人もの人が亡くなるような高齢化する被爆者に、まだ原爆の苦しみから救済しようとしないという二重の意味で残忍な行為といわざるを得ません。現在でも被曝に関する研究はすすめられ、新たな成果も生まれています。国が固執する原因確率論、1986年線量評価体系(DS86)に対しても、その基準を改めるべきだという世論も広がってきています。今年9月、原爆症認定集団申請の第2次・第6陣の申請が10都道府県で一斉に行われました。東京、埼玉、静岡、愛知、石川、兵庫、広島、長崎、熊本、鹿児島を合わせて49人が、各自地体の窓口に申請書を提出しました。日本被団協が呼びかけている集団申請運動です。現在、原爆症認定集団訴訟は、190人が15地裁と2高裁で闘いを続けています。集団訴訟・認定申請など医師として私達の果たすべき役割はますます重要になってきています。多くの医師集団で協力していかねばなりません。また広島での判決文の中に注目すべき事柄があります。それは内部被曝に関連して劣化ウラン弾の有害性、危険性が原告の証人の意見がほぼ全面的に認められていることです。劣化ウラン弾は今も製造、使用されています。一刻も早く製造に中止、使用の禁止を訴えてゆかなければなりません
一方国外に目を向けてみると、在外被爆者に対しても国は冷たい態度を取りつづけています。しかしこれらも裁判により困難を極めながらも少しずつ前進しています。その内容としては、国外から被爆者健康手帳や健康管理手当の申請に関するもの、未払いの健康管理手当ての支払いを求めるもの、日本国内の被爆者との差別扱いに対する保障を求めるものなどです。一方約1000名近くとも言われる北朝鮮の被爆者の問題は、現在もまだ放置されたままの状態になっています。南北分断が日本の植民地支配の結果引き起こされた事態であることを見据え、日本政府の真摯な解決努力が求められています。被爆者の問題は、その被害を完全に救済しきることと、二度と核兵器が使われないよう核廃絶を実現させることでしか解決しないのです。
(4)「反核医師の会」の活動
「申し合わせ事項」にもとづいて「会」が運営されるようになって2年が経過しました。このまま「会則」として運用が可能であると思われます。ただ全国の「会」や会員の声や、要求を活動にどのように反映していくかという課題が残されています。この1年全国都道府県下の反核医師の会は、昨年と同様28で新たな会の結成は見ることが出来ませんでした。しかし埼玉や群馬では一時停滞していた活動が活性化され、鹿児島では新たに「会」の結成にむけた動きなども見られます。
「反核医師の会」はこの1年間で、団体会員30、個人会員252人(06年8月27日現在)と少しずつではありますが発展してきています。しかし若手医師や医学生への取り組みはまだまだ十分とはいえません。これからの活動の課題となっています。財政面では、個人・団体会員拡大による会費の増収、「反核医師の会ニュース」の購読拡大、「つどい」の運営の工夫などによりかなり改善が見られています。「会」の運営は2ヶ月に1度常任世話人会を開催しています。回を重ねる毎に多くの世話人の参加が得られ、かなり大きな会議となっています。また全国の会員の意見も反映させることが出来るように、「つどい」開催に合わせて、全国の世話人会議も予定しています。常任世話人会では全体会の前に(1)国際部(2)被爆者医療(3)広報部の小委員会に分かれて運営しています。
@ 国際部
昨年の愛知での「第16回つどい」において、在韓被爆者の実態調査に関して報告がありました。これをきっかけにその実態を学ぶと同時に、現地へのツアー「平和と交流の旅IN韓国」も催されました。今年9月にはヘルシンキで第17回IPPNW世界大会が開催され、「会」からも多くの参加がありました。来年にはモンゴルで北アジア大会が、再来年にはインドで世界大会の開催が予定されています。唯一の被爆国として、また平和憲法を持つ国として、朝鮮半島を中心とした北東アジアに非核安全地帯を形成する上で、日本の果たす役割は重要です。国際交流を深め追求していく必要があります。
A 被爆者医療
一番に大きな取り組みは、原爆症認定集団訴訟に協力支援です。これから多くの判決が出されます。国に控訴をさせないような世論作りが出来るように運動を強めなければなりません。また各地で行われている、相談や健診活動にも協力して取り組み、原爆症認定申請運動も強めなければなりません。また在外の被爆者に関する情報を収集し、救済に対する対応を考えていくことも重要です。そしてこの運動に携わる医師集団をより大きくしていくことが求められています。
また劣化ウラン弾に関してもその危険性を指摘し、製造・使用禁止の運動のも取り組む必要があります。
B 広報部
この1年「反核医師の会ニュース」は引き続き、第31(11月),32(3月),33(7月)号と予定どおりに発行することが出来ました。現在読者数は、個人や団体加盟の会員、その他の有料購読も含めて、約3,000部と飛躍的に増加しています。「2005年度活動報告集」も発行しました。ホームページやメーリングリストも充実しています。また原爆症認定集団訴訟大阪・広島のそれぞれの勝訴判決についての声明文を発表しました。今年2月と8月に行われた米国の未臨界核実験対しても抗議声明をだしました。広報は私達の存在を内外に強くアッピールすると同時に、ともに運動する仲間を増やすとても重要な活動です。
「核戦争に反対する医師の会」が結成されて来年で20年になります。内外の情勢は決して楽観できるものではなく、むしろ緊張は高まってきています。私達の活動の意義はますますその重要性を増しています。各地での会の活動の活性化と、空白地の克服がなんとしても必要です。全国の「会」と会員の総意で目標をもった活動を広げていこうではありませんか。