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記念講演――「ヒロシマ〜テレビの現場から」堀川惠子さん
特別講演――「米軍再編と日本の未来〜原子力空母の横須賀母港化の意味するもの」呉東正彦さん
青春の日々をチンチン電車に捧げて「銃後」を守りそして被爆。国策に翻弄された女学生たちの人生を追った広島テレビ放送のドキュメンタリー番組「チンチン電車と女学生」。
その番組を上映した後、制作者のテレビディレクター堀川惠子氏が、「ヒロシマ〜テレビの現場から」と題して記念講演を行った。
堀川氏は番組制作にかかわる中で、「原爆被害を知らない若い人にどうしたら見てもえるか、という面と視聴率を犠牲にしても伝えなければならないことをどう伝えるか、そのジレンマを抱えながら」苦心していること、様々な人との出会いで制作意欲に「スイッチ」が入り番組ができたことなど、制作にまつわる秘話と広島への思いを語った。
その上で「終戦・原爆番組の制作は組織的に保証されているわけではなく、作りたい人がいるかどうか、それに応えるプロデューサーがいるかどうかにかかっている」というテレビ業界の現状の報告と、「被爆者や戦争体験者が高齢化し亡くなっていく、まさに時間との戦いだ。証言者がいなくなったらドキュメンタリー番組はできないのか、という問題に直面している」とし、それを補う映像手法にも言及した。
最後に「ジャーナリストは政治色を出さず中立であれと常に言われるが、今の政治が偏っている中で、中立でいようとは思わない。終戦直後の国民は『戦争はこりごりだ』という気持ちだったと思う。その気持ちにいかに立ち戻れるか、それを信念として仕事をしていきたい」と締めくくった。
続いて、原子力空母の横須賀母港化問題を考える市民の会共同代表の呉東正彦弁護士が、「米軍再編と日本の未来〜原子力空母の横須賀母港化の意味するもの」と題して特別講演を行った。
呉東氏は原子力空母の軍事的役割と米国の海軍基地で発生した緊急停止事故記録を示しながら、原子炉事故による放射能災害や環境汚染の危険性を指摘した。
また米軍には一切の日本原子炉関連法が適用されず、情報提供もなければ立ち入り検査もできない、主権のブラックボックス状態となるとし、それを認める日本政府の、国民の安全を無視した態度を鋭く批判した。
横須賀市長が浚渫工事容認に転じた今、これからの運動として、「地方自治法の条例直接請求によって原子力空母に関する住民投票の実施を求めていく」と母港化反対の世論を一層盛り上げていく決意を述べるとともに支援を訴えた。
第1分科会「旧日本軍731部隊での研究から医師・医学者の生き方を問う」 (前橋協立病院 三浦章寛)
第1分科会は二部構成で行われました。前半は、元東北大学教授でみやぎ反核医師の会の刈田啓史郎先生による旧日本軍731部隊に関する講演でした。後半には「医療者として私たち自身が憲法9条を守り平和な社会を築いていくことの必要性」と題して、主に若手医師や医学生からの感想、疑問を元に全体討論を行いました。
刈田先生からは当時の満州で日本軍が捕虜の中国人などに行った人体実験や生体解剖の内容、それらの行為に医師が関わるようになったいきさつ、戦後のその医師たちの動向など詳しいお話がありました。
医学生からは「はじめて知った。」、「関わりのあった医師たちが戦後も裁かれることなく大学の教壇に立ったり会社の重役になったりしていたことは驚きだ。」、中には、「自分の学んでいる医学とは一体何なのか考えさせられる。」という意見も出るなど大きな反響がありました。それに対して先輩医師からは「医療では治療という名目で患者さんに侵襲を加えることも多い。患者さんとしっかり向き合い、その人にとって本当に必要なのか考えることが大切。」と助言がありました。また、平和運動について「自分で学んだことを周りにうまく伝えきれない。」という悩みも紹介されました。先輩からは「この間バスツアーの帰りに9条の問題を呼びかけたら賛同してくれた。」、「自分も楽しんでやらないと長続きしない。」など日常の中にうまく取り入れるコツが披露されました。最後は、今回のつどいに初参加の学生からの「今までどうして医師が平和問題に関わらなくてはいけないか分からなかったが今回参加して学ばせてもらってその理由が分かった気がした。」という素晴らしい感想で締めくくられました。
第2分科会「米国の世界戦略と首都圏の核基地化」
「米国の世界戦略と首都圏の核基地化」と題して行われた第2分科会には、特別講演を行った呉東正彦弁護士を始め、鈴木和弘氏(神奈川県平和委員会)、平山武久氏(反核医師の会)、桜井真作氏(米軍演習の北富士移転に反対する山梨の会)、小池悦子氏(核戦争を防止し平和を求める茨城医療人の会)の5名が首都圏の米軍基地の状況を報告。30名ほどが聴講した。
報告の中で呉東弁護士は、母港化は日本国内で燃料交換や動力修理を行わないとした1964年のエード・メモワールに違反し、同書簡をなし崩しにする可能性があると指摘。さらには母港化に伴い、他の原子力艦船の寄港増加や、放射性廃棄物を扱う作業が日本の下請け企業へ任される懸念があることを述べ、原子力艦船や兵器を受け入れざるを得ない状況が拡大されていく危険性を説示した。
また、キャンプ座間への移転で注目されるUEX(展開可能な作戦司令部)について鈴木氏が解説。先制攻撃を目的としたUEXの移転に伴い、自衛隊の中央即応集団司令部も移転して来ることに触れ、米軍と自衛隊の統合運用が進んでいること、そしてそれがキャンプ座間を頂点として日本全体に影響を及ぼす改変であることを指摘した。
続いて平山氏からは米軍横田基地が世界中の基地と通信網を形成しており、核攻撃にかかわる緊急行動メッセージの伝達を担っていると報告。日本にある基地から核攻撃にかかわる指揮、統制が行われる実態を報告した。
そのほか北富士演習場における米軍演習に関して桜井氏から、また小池氏からは米軍再編に伴う百里基地への訓練移転問題について報告がおこなわれ、ボリュームある報告に会場からは多くの質問が寄せられた。
※エードメモワール…日本への原子力艦寄港に関する照会に答える形で1964年8月、米政府が日本政府に通知した書簡。【1】日本政府の意図に反する行動をしない【2】安全確保へ広範囲な措置をとる【3】燃料交換や動力修理を日本で行わない【4】寄港目的は休養、補給―などが骨子。
第3分科会「医師・科学者・被爆者・弁護団の考える原爆行政 そして医学生も立ち向かう!!」
第3分科会では、原爆症認定集団訴訟(原爆裁判)と被爆者医療をテーマに企画を行った。現在行われている原爆行政を踏まえ、原爆裁判の意義と状況、また被爆者医療への認識を深めることを目標とした。
今回はメイン企画として原爆裁判の再現劇を行った。日々の診療の中で原爆裁判の公判を傍聴することは難しい。そのような中で国側の裁判での尋問内容等が現実の被爆の実相を見ようとしておらず、原爆症の認定行政も全く改善されていない状況がある。実際、どのような主張を国側が行っているのか。弁護団の協力を得て再現を試みた。再現劇の元となったのは、東京の集団訴訟の第12回公判である。当日は実際に原告側の証人として立たれた聞間元先生 (生協きたはま診療所所長・静岡民医連会長・全日本民医連被爆問題委員会の委員長)に登場いただいた。
再現劇では尋問を行う国側の「悪役」を現役医学生に依頼し、小林隆信さん(東海大医学部4年)、逸見由紀さん(札幌医大4年)、領家由希さん(長崎大医学部4年)に登場してもらった。また、研修医の鎌田美保先生(船橋二和病院)には各地から平和の取り組みにもとりわけ熱心な医学生を紹介していただくプロデューサー的役割のほか、当日も劇に加わっていただくなど多大な協力をいただいた。若いこれからの被爆医療の担い手にこのような積極的な役目を果たしていただいたことは今回の分科会の成功のポイントのひとつである。
再現劇を行うにあたり原爆裁判の概要について田部知江子弁護士(東京弁護団・オリーブの樹法律事務所)からパワーポイントによる分かりやすい説明をいただいた。
再現劇の後には各専門家の視点から講演をいただいた。
向山新先生(東京反核医師の会代表委員・立川相互ふれあいクリニック所長)から「原爆症認定集団訴訟と医師の関わり」と題して、集団訴訟にあたり医師の意見書作成の経緯、状況などを中心に医師の取り組みについて紹介があった。
長谷川倫雄先生(神奈川・神奈川北央医療生協さがみ生協病院病院長)からは「医師から見た原爆行政」 と題し「原爆被爆者に対する国・自治体の施策」と「被爆者援護対策の概要」について具体的な説明をいただいた。次に研究者の視点から、矢ケ崎克馬先生(琉球大学理学部教授、理学博士)より「原爆投下後の放射性降下物」について特別講演いただいた。放射能の影響の恐ろしさが改めて科学的なデータにより説明された。
神奈川の原爆裁判への取り組みとして小賀坂徹弁護士(神奈川弁護団・馬車道法律事務所)から神奈川の裁判の状況について報告があった。また、丸山直治副会長(神奈川県原爆被災者の会)から原爆行政を改めるよう被爆者の立場から支援のよびかけがあった。神奈川の原爆裁判に取り組む、弁護団、被爆者とも意見交流できたことも意義深かった。
最後に、再現劇を行うにあたり中川重徳弁護士(東京弁護団・諏訪の森法律事務所)には大変なご協力をいただいた。
中川弁護士は企画段階で「原爆裁判においては医師団による医師の意見書の役割が非常に大きい。その意見書の成果を医師の間でもっと共通認識としてもよいのではないか」と話された。このアドバイスも今回の分科会を企画する上で非常に参考になり、当日は医師の意見書も配布した。今回、再現劇の打ち合わせの中で聞間先生がレクチャーされたことが改めて原爆裁判に活かされそうな動きもあり、弁護団と医師団との意見交流の場となったことも今回の分科会の成果の一つである。
当日は45人が参加し、アンケートでも「大変参考になった」「参考になった」で占められた。他に「それぞれの講師の話をもっと聞きたかった」との意見もあった。12時15分まで延長された点やフロア発言の時間が十分でなかった点は時間配分の反省点だが、各専門家の講演については大変充実しており、「再現劇も大変分かりやすくてよかった」との感想が多数寄せられた。
第4分科会「劣化ウラン兵器を考える」
劣化ウラン問題の分科会は04年・05年に続いて3回目。「核の問題は現在進行形の重大な危機」であることを実感させる取組となった。
フォトジャーナリストの豊田直巳氏は、様々な写真を紹介しながら、劣化ウランに限らず、インドネシアのアチェの紛争やパレスチナ問題、カナの虐殺を含むレバノンへのイスラエル侵略の問題なども紹介した。そして、このような非人間的な行為は全世界で繰り返されており、劣化ウラン問題も同じ根があると語った。
物理学者の藤田祐幸氏は、実際にコソボやイラクで使用されたウラン弾を示しつつ、その特性を説明。イラク調査の結果、原発用ウラン濃縮工場から出たウランであったこと。地域での深刻な放射能汚染と同様に「使った側の兵士のヒバクも凄いだろう」と語った。また、劣化ウランを問題にして原発を問題にしないのはナンセンスだと述べた。
「ウラン兵器禁止を求める国際連合」(ICBUW)評議員で医師の振津かつみ氏は、今年8月のICBUW広島世界大会が草の根市民のすばらしい連帯を示したこと、9月に参加したIPPNWヘルシンキ大会で劣化ウラン問題ワークショップでの意義深い交流を報告。被害者側に因果関係の科学的証明を求めるのではなく、使用者側が安全性を証明することを要求すべきだと強調した。
議論の中で「医師として何をすればいいのか」の問いに、藤田氏は「自分で考え行動することが大切」、振津氏は「医師の発言力は大きなものがある。もっと発言してほしい」と答えた。