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基調報告
情勢にこたえ、反核医師の会の活動、強化を
核戦争に反対する医師の会
代表世話人 山上 紘志
秋葉忠利広島市長は、今年8月に広島市で開催された平和式典での「平和宣言」において、「地球人口の過半数を擁する自治体組織、『都市・自治体連合』が平和市長会議の活動を支持しているだけでなく、核不拡散条約は190か国が批准、非核兵器地帯条約は113か国・地域が署名、昨年我が国が国連に提出した核廃絶決議は170か国が支持し、反対は米国を含む3か国だけ」と、核兵器廃絶を求める声が多数派であることを強調しました。
そして、「対人地雷やクラスター弾の禁止条約は、世界の市民並びに志を同じくする国々の力で実現」したこと、「地球温暖化への最も有効な対応が都市を中心に生れて」いること紹介し、「市民が都市単位で協力し人類的な課題を解決できるのは、都市が世界人口の過半数を占めており、軍隊を持たず、世界中の都市同士が相互理解と信頼に基づく『パートナー』の関係を築いて来たから」だと述べ、「日本国憲法は、こうした都市間関係をモデルとして世界を考える『パラダイム転換』の出発点」として、日本政府が憲法を遵守し、「ヒロシマ・ナガサキ議定書」の採択のために各国政府へ働きかけるなど核兵器廃絶に向けて主導的な役割を果すよう要求しました。
日本国憲法の平和条項の精神が世界の国と人々の平和と民主主義を守る様々な活動に生かされつつあると言えます。
他方、戦後63年を経たいま、2万6千基ともいわれる核兵器が世界に配備・貯蔵され、人類の生存を脅かし続けています。
こうした状況のもとで、今年の「第19回つどい」は金沢で開催されます。
「第19回つどい」開催あたり、まず、航空自衛隊の田母神俊雄航空幕僚長が民間企業が主催する懸賞論文で、「我が国が侵略国家だったなどというのは、正に濡れ衣である」と戦前の日本の侵略を否定する論文を発表していていたことに対し、断固抗議の意思を表明したいと思います。
田母神氏は、イラクでの航空自衛隊の活動は違憲とした今年4月の名古屋高裁判決に対し、「そんなの関係ねぇ」と憲法無視の発言をおこない、世論の厳しい批判を浴びました。そもそも田母神氏は安倍晋三内閣のとき、当時の石破茂防衛相によって任命されました。石破氏は当時、「隊員を思う真摯(しんし)な気持ち」と田母神氏を擁護しました。このよう憲法無視の確信犯である人物を任命し、要職に置いて放置してきた政府、首相と防衛相の責任は極めて重大です。
その立場から私たちは、自衛隊幹部による憲法無視の言動に対し断固抗議するとともに、国会での徹底審議を強く要求します。
(1)核兵器をめぐる状況
1、米国の危険な核戦略
米国は、「テロと核拡散」が「新たな脅威」であるとして、核兵器廃絶を拒否するばかりか、先制軍事攻撃と核兵器使用計画が一体になった危険な戦略をすすめ、新型核兵器の開発、先制攻撃を補完する「ミサイル防衛」システムの開発・配備などを続けています。これは、核拡散問題の解決を妨げる重大な要因ともなっていることは明白です。
テロや核拡散の防止という理由で、核兵器の保有、まして核脅迫や軍事攻撃を正当化するなどということは、もはやまったく通用しません。悲惨な状況がつづくアフガニスタンやイラクなどの現状は、核拡散問題の平和的解決、核兵器の廃絶、平和の国際秩序確立こそが進むべき道であることを示しています。
2、核兵器廃絶を求める注目すべき動き
核兵器の廃絶を求める声はいま、世界の声となり、圧倒的多数の政府もその実現を求めています。
@核保有国支配層とその同盟国等での新たな動き
米英両国の支配層、核抑止論者、同盟国の間から相次いで核兵器廃絶の提唱がおこなわれています。
キッシンジャー元米国務長官ら元米高官4氏による共同論評「核兵器のない世界へ」の発表は反響をよび、米歴代政権の国務長官、国防長官らの大多数が賛同を表明しました。米有力民間3団体も次期大統領への10項目の具体的措置を提案しました。ノルウェー外務省は2月、核兵器廃絶のための国際会議を開催しました。
こうした認識は米大統領選にも反映し、米民主党がこのほど発表した選挙政策要綱で、核兵器廃絶を「米国の核兵器政策の中心的要素」を宣言しました。
これらの動きは、核兵器「廃絶」を目標に掲げている点で、大いに注目できるます。
A第62回国連総会
昨年の第62回国連総会は、加盟国の圧倒的多数の賛成で核兵器関連の諸決議を可決しました。ニュージーランドが同総会に初めて提出した、核保有国に核兵器をはじめ、NPT再検討会議の合意である「核軍備の全面廃棄を達成するとの明確な約束」の履行を加速するよう促す新アジェンダ連合決議や真正面から核軍備撤廃を訴えた非同盟運動決議など、投票に付された核兵器関連20決議全てが圧倒的多数で採択されました。一方米国は、投票に付された決議すべてに反対して、孤立ぶりをあらわにしました。
B核兵器廃絶のための国際的交渉
国際反核法律家協会が作成したモデル核兵器廃絶条約はコスタリカ政府により国連総会に提出されました。また、核兵器廃絶条約への展望を切り開くうえで、今後、「核の傘」への批判を強める非核兵器国の「西側」諸国と、核兵器廃絶を主張する非同盟諸国、7カ国イニシアチブ、新アジェンダ連合との連帯・共同のいっそうの発展が求められます。
C新しい国際共同行動の提唱
今年8月に開催された「原水爆禁止2008年世界大会」には政府・機関代表も11か国・12人を含めて、32か国からの海外代表と国内代表をあわせた約1万人が参加しました。国連現職幹部として初めてセルジオ・ドゥアルテ軍縮担当上級代表(事務次長)をはじめアラブ連盟のアブデル・モネイム軍縮担当顧問、エジプト、キューバ、メキシコ、マレーシア、ノルウェー、エクアドル、キューバ、ベネズエラから駐日大使館など、かつてない多数の代表が参加しました。大会では、2010年NPT(核不拡散条約)再検討会議にむけ、新しい国際署名運動をはじめ、多彩で創意あふれる国際共同行動がよびかけられました。この運動は、IPPNWが提唱した核兵器廃絶キャンペーン=I CANや平和市長会議の「議定書運動」などの運動とも連帯してすすめられるものです。
Dイラン核開発問題・6カ国協議
イランのウラン濃縮拡大により、核開発問題は緊迫した局面を迎えています。米国やイスラエルはイランの核開発を軍事目的だと決めつけ、武力攻撃による破壊すら公然と提起している。同時に、米国はイスラエルの核保有に対して放任の立場を取り続けており、これに中東諸国が不信と批判をつのらせているのでは当然です。
北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議は、7月に、朝鮮半島非核化「第二段階」の完了を目指し、北朝鮮の核施設の無能力化と、他の5カ国による経済・エネルギー支援を10月末までに履行することで合意していました。しかし、北朝鮮が提出した核申告の検証手続きをめぐる米朝の対立が埋まらず、米国がテロ支援国指定の解除を見送ったことを受けて、北朝鮮は態度を硬化させ核施設の封印解除と監視用カメラを撤去させました。私たちは北東アジアの非核化めざし、北朝鮮が6カ国協議の合意を遵守するよう求めるものです。
(2)問われる被爆国日本政府の態度
1、対米追随の日本政府
国内的には、福田首相が辞任し、目前の総選挙が確実な情勢を迎えています。安倍首相に続く福田首相の政権投げ出しは、米国の無法な覇権主義に追随した自公政治の矛盾の深さをしめすものです。
被爆国として、米国をはじめ核保有国に真正面から、核兵器のすみやかな廃絶を迫ることが求められているときはありません。
日本は、人類史上唯一、核戦争の惨禍を体験し、戦争と戦力を放棄する憲法9条と非核三原則の国是を持つ国として、すみやかな核兵器の廃絶のためにイニシアチブを発揮することが強く求められています。しかし実際には、「核の傘」の名のもとに米国の核戦略に深く組みこまれ、太平洋、インド洋、中東へと軍事行動をくり広げる米国の艦船などの出撃拠点とされ、さらに原子力空母が横須賀に配備されるなど、核超大国の米国に追随する態度に終始しています。
私たちは、このような危険な動きに反対し、憲法をまもり、非核平和の日本のためにたたかう人びとに、強い連帯を表明します。
2、原爆症認定集団訴訟
今年4月、被爆者などの粘り強い運動の前に、厚生労働省はついに認定申請却下の根拠としてきた「原因確率」を放棄し、残留放射線の影響も認める「新しい審査方針」にもとづく認定をはじめたものの、依然として原爆症認定疾病を狭く限定するなど、被爆者に冷たい姿勢を改めようとはしていません。すでに、全国の7地方裁判所において、ほとんどの原告を原爆症と認める判決が繰り返され、今年3月の仙台、大阪での高裁では、被爆者全員を原爆症と認める判決が確定しています。いずれの判決においても国の認定行政が断罪されています。
被爆後63年を経て、被爆者の高齢化は進み、全国では勝訴原告を含む56名が提訴後に死亡しています。原告・被爆者に残された時間は長くありません。
国及び厚生労働大臣は、直ちにこれまでの誤った被爆者行政を改め、「新しい審査の方針」を抜本的に見直すとともに、現在、各地で行われている原爆症認定集団訴訟を直ちに全面的に解決すべきです。そして、被爆者の悲願である核兵器廃絶と国家補償の実現をはかるべきです。
3、米原子力空母配備
米国原子力空母ジョージ・ワシントンが9月25日、横須賀への配備が強行されました。原子力空母ジョージ・ワシントンは、5月に深刻な火災事故を起こし、さらに原子力艦船の放射能漏れも発覚し、横須賀市民はじめ国民の原子力空母の安全性に対する不安と不信は頂点に達しています。
こうした事故についてのまともな情報公開もせず、地元住民への説明会の開催も拒否したまま、原子力空母の配備を強行したことは、断固として許すことはできません。
そもそも、原子力空母の配備は、日本をアメリカの先制攻撃戦略に基づく侵略と干渉の出撃拠点としていっそう強化するものであり、また、3千万人もの居住する首都圏に動く原子力発電所を設置することに等しく、住民のいのちと安全に重大な危険性を及ぼす恐れのあるものです。
平和のためにも、日本国民のいのちと安全のためにも、原子力空母の配備、米軍基地の再編強化に強く反対します。
(3)「反核医師の会」の活動
昨年9月23・24日に京都市内で開催された第18回つどいは、過去最高に迫る335人が参加し、発足20周年の記念の年にふさわしく、核廃絶へ被爆国医師として社会的責任を果たす決意を固めあう場となりました。
その後一年間、反核医師の会は、毎回の常任世話人の会の際に、国際部、被爆者医療・集団訴訟、広報宣伝の3つの専門チームの会議を開き、様々な課題の具体化などをおこなうとともに、今年度は、IPPNW第18回世界大会、原爆症集団訴訟、10周年記念事業、広報宣伝活動、各地の反核医師の会の活動強化などにとりくんできました。
1、20周年記念事業の推進
つどい発足20周年を記念した事業として、「平和へのアクション101+2」を発刊しました。また、この原書は、IPPNWのもと共同議長のメリーウィン・アシュフォードさんが執筆した「ENOUGH BLOOD SHED」です。また、この本の発行とあわせて、アシュフォードさんを招いての講演会を大阪、石川、京都、兵庫、和歌山、愛知などで開催し、のべ2000名が参加しました。
本書には、著者の経験を踏まえ、知る喜びや戦争や暴力をなくす世界中の具体的な解決法が記されています。本書を読むことは、IPPNWが提唱する「核兵器廃絶のためのキャンペーン」(I CAN)に積極的に参加することになります。書名の「+2」とあるのは、日本人のための2つの解決法―「ヒロシマ・ナガサキを風化させない」と「平和憲法を世界に広げよう」の2例を監訳者の松井和夫先生が補筆したものです。全国各地で平和運動にとりくみ、反核医師の会の活動を広げる絶好の武器として積極的に活用していただくよう呼びかけます。
発行にあたりご尽力いただいた監訳者の松井和夫先生、友野百枝先生をはじめ翻訳作業に携わっていただいた皆さん、かもがわ出版のみなさん、関係者のみなさんすべてのお礼と感謝を申し上げます。
2、IPPNW第18回世界大会
3月9日から3日間、IPPNWは第18回世界会議をインド・デリー市内のVPHOUSEで開きました。反核医師の会から、医学生3人を含む21人の代表団(通訳、事務局含む)が参加しました。会議には各国から延べ600人(58カ国)が参加しました。参加者の半数近くが医学生、研修医などの若い世代であったことは重要でした。次回の第19回世界大会は、2010年8月25日から30日まで、スイス・バーゼルで開催されます。反核医師の会の企画を具体化するとともに、全国からの積極的な参加をよびかけます。
3、被爆者医療、原爆症集団訴訟
昨年のつどい後、5月の仙台、大阪での高裁、6月の長崎地裁、9月の札幌地裁の各判決に対する「会」としてのコメントを発表し関係方面へ送付しました。また、年3回発行の反核医師の会ニュースでは、毎号集団訴訟関連の記事を掲載しました。
また、元米兵のデニスカイン氏を招いての劣化ウラン弾による放射能被害を告発する講演会が愛媛、広島、大阪などで開催されました。
引き続き医学的専門集団としての役割を発揮していきましょう。
4、広報宣伝活動
反核医師の会として、年3回(3月、7月、11月)の反核医師の会ニュースや活動報告集を発行しました。また、ホームページやメーリングリストでの交流もおこなってきました。反核医師の会からの情報発信、会員の経験交流をはかるものとして、内容の充実などをはかっていきます。また、新に反核医師の会の紹介リーフを作成しました。反核医師の会を広げるために積極的な活用をお願いします。
5、全国の会と各地の会の活動強化
現在反核医師の会の会員数は32団体、個人278人です。各地の会は29県です。
第19回つどい開催にあたり、医学生部会が結成されました。それに伴い、規約の改定をおこないます。医学生部会の設立は、長年にわたり会員が熱望していた期待でした。つどい組織の大きな進展と今後の共同行動の拡大を保障することになりましょう。新しい会員を迎えた感動を共有いたしましょう。
昨年の京都のつどいのとりくみを通じて、奈良県での新たな会の結成をかちとることができました。今年も北陸3県での実行委員会の開催を通じ、富山での活動再開などもはかられました。また、岩手県でも再開総会が開催されました。
核兵器のない、平和な世界と日本の実現にむけて、被爆国であり、憲法9条をもつ日本の医師・医学者の集まりである私たちの果たす役割はますます大きくなっています。私たちのまわりにいる医師、医学者、医学生、また、核兵器廃絶を求める様々な個人や団体との共同、連帯を強めて、多彩な活動にとりくみましょう。そして反核医師の会の会員拡大、各地の「会」の新たな結成、活動の強化をすすめましょう。
以上